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結婚式の準備は進む♪

 溺愛という言葉を聞いたマユはため息をつく。


「溺愛というか、ネタにされてるだけなんだけどね……。エルザさんもレティシアさんの結婚準備で忙しいの?」

「うん。レティシア様は結婚準備でこっちとザクセンを行ったり来たりしてるから、荷造りがたいへんだって。嫁入り道具のハンカチやナプキンの刺繍なんかはとっくに終わってるらしいけど、いまは『ぱれーど』の準備をしてる」

「パレードの準備?」

「ぱれーどで国の人たちに見てもらうからってレティシア様が張り切って、みんなでウェディングドレスとかいろいろ作ってるんだ」

「ウェディングドレス? そういうのはお針子さんが作るんじゃないの?」

「作るのはお針子なんだけど、真っ白なウエディングドレスが汚れないように真っ白な手袋をして縫うんだって。その手袋は半時に一回替えるから、手袋の洗濯だけでもたいへんらしいよ。それからパレードの時につかう『うちわ』ってやつに『民に栄あれ!』とか『我は民たちと共に!』って書いたり貼ったり、ぺんらって言うんだっけ? 色んな色の炎が出るロウソクを作ったり……。ぱれーどとかぺんらって、マユが考えたんだよね? 楽しそう♪」


 マユはのけぞる。

「ぶっ! ウチワやペンラまで作ってるの!? レティシアさんとアンドレア王子をお祝いするためだから、国民たちが作るって説明したんだけど!?」

「エルザが言うにはレティシア様が『民たちに祝ってもらうだけでもありがたい。うちわとぺんらはアンドレアとわたくしが準備します』って。レティシア様って、いい方だよね♪」

「ほんとにねぇ……。まさかお祝いされる側が作るとは……!」


 サラは活けた薔薇を見ながら、うっとりしたようすで言う。

「王様はレティシア様の嫁入り道具の器をぜんぶ! プラチナで作らせようとしたんだって」

「プラチナッ!? どんだけ豪華なのっ!?」

「でもレティシア様は質素なのがいいって銀にしたから、それを磨くのもたいへんだって」

「……節約した結果が銀なんだ……。ふつう、銀器は贅沢なんだけど……」

「ほんとだねぇ! すごいねぇ!」


 ニコニコ顔のサラを見て、マユも笑顔になる。

「エンゾさんとはどう? 仲良しさんなの?」

 サラの笑顔が広がる。オレンジ色の髪と瞳が相まって太陽のようだ。

「えへへ♪ 仲良くしてるよ♪ エンゾは庭木の世話で手にキズができるから、あたしはお母さまが作った薬を塗ってあげるんだ♪」

「あらら♡ 仲の良いこと♪」

「それからエンゾに子守歌を歌ってあげるんだ♪ エンゾにはお母さまがいないから、子守歌を聞いたことがないんだって」

「そっか……」

「あたしはお母さまやお姉さまにたくさん子守歌を歌ってもらったからね♪ たくさん知ってるんだ♪」

「すごく喜ばれるんじゃない?」

「うん♡ すごく喜んでくれる♡ ずっと聞かせてほしいって♡」


 いよいよレティシア王女とアンドレア王子の華燭の典が近づいてきた。

 城中がお祝いムードでにぎやかしい。まいにち国内外からお祝いの品々を携えた使者がやってきて城内を行き交っている。結婚準備の忙しさにまぎれてマユの不穏な噂も下火になり彼女の貢献を評価する者たちも現れて、マユは久しぶりにのびのびとした気分で過ごしていた。王やアレックス、大勢の大臣たちを前にして話す会議でもにこやかだ。


 マユは壁に貼られた地図を指し示す。

「図のように、聖タルーマ山の大聖堂で結婚の儀式を済ませ下山したレティシア王女様とアンドレア王子様は、プランタジネット城で一度目のお祝いの宴を開きます。招待客は約3000人。これはカベー女王やアカルディ国王といった国外の賓客と、プランタジネット王国の主だった方たちです。同時刻にプランタジネットとザクセン全土でお祝いのパーティーが開かれ両国の和平を祝います。後日、ザクセン王国で二度目の祝宴が開かれます。そちらの宴はザクセン王国主催の宴です」


 美食家のでっぷりとしたトーマス大臣が手を挙げてマユの注意をひく。

「なんでも『ばいきんぐ料理』という新しい趣向の料理が出るそうだが?」

「えぇ。3000人という大人数に対応するため、料理は大皿に盛って並べます。各人はお好きな料理をお好きなだけ自分のお皿にとって召し上がることができます。各地で同じ時間に催されるパーティーも、同じバイキング料理が供されます」

「なんと! 好きな料理を好きなだけ!?」

「そうです。そうすれば料理をサーヴする人員を減らすことができますし、お客様は好みに合わせた料理を召し上がることができますから」

「好きな料理を好きなだけ……! なんと画期的な!」


 感動する美食家子爵を見て笑いながら、背の高い大臣がマユへ問いかける。

「『ぷりん』という珍しい料理が出るそうですが、いったい何ですかな?」

「卵と牛乳を使った甘いお菓子です。レシピはそれぞれの村に配布してあります。儀式の後はプランタジネット王国の名物として大々的に売り出す予定です。土産物として喜ばれるかと思います」


 筋骨隆々とした大臣が発言する。騎士団の長だ。

「我ら騎士団はどうするのです? 出番はあるのですか?」

「両国の騎士団の皆さんには、王女様と王子様お二人の馬車の護衛をお願いします。第一礼装のマント着用で馬に乗って、両国の国旗を持ってパレードに参加してもらいます」

「それは勇壮な! 両国の騎士団による一糸乱れぬ行進をお見せしましょうぞ!」


 小柄な大臣がボサボサした眉毛の下からマユを見つめる。

「マユさまの発案した『ぱれーど』というのは? いったい何をするのか想像もつかんのだが」

 マユは地図を指し示す。

「結婚の儀と成婚披露の宴が開かれた翌日、王女様と王子様御一行はプランタジネット王国の城から聖タルーマ山のふもとに添ってザクセン城へ向けて練り歩きます。当日はお二人の馬車、これは白馬の20頭建てです。その前後に両国の騎士団や楽師で結成された音楽隊、お祝いのダンスを踊る人たち、ユーピテルの神々をかたどった大きな山車だしや曲芸団などが沿道の人たちの歓声に応えながら約5000人で歩きます。沿道にはお祝いの言葉が書かれたうちわやペンラを持った人たちが並んで、お二人にお祝いの言葉を投げかけます」

「移動するお祭りですか! それはめでたい! 国の民たちがこぞって見に来ますな!」

「はい。国内だけでなく国外からもたくさんの方がいらっしゃいます」


 痩せて年老いた大臣が厳しい顔で発言する。

「お祝いをするのはいいが、ずいぶんな出費になりますぞ! 収支はどうなるのじゃ?」

「隣国のカベーやアカルディからパレードを見にくる観光のお客様から、国境で入国料をいただく予定です。また村ごとにパレードを見る有料の桟敷席を作ったところ、すでにかなりの予約が入っています。席が足りないので増設中です。一連の行事の大部分はそれらの収益で補填できる見込みとなっています」

 大臣は大きな拍手をする。「それは素晴らしい! マユ殿の見事な手腕には恐れ入った!」


 どうなることかと心配そうな顔でやり取りを見守っていた王とアレックスは、安心したように顔を見合わせてにっこりする。会議はお祝いムードの中なごやかな雰囲気で終わり、マユはほっと安堵の息をついた。


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