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マユは推理する。

 華やかな香りの紅茶を飲みながらマユは言葉を選ぶ。


「……証拠はないので、あくまで憶測ですが……」

 膝を乗り出す一同を見て、マユはおぼつかない口調で続ける。

「何度も狙われているのに、王様もアレックスもオスカーもノエルも無傷なんですよね……」

 アレックスは金髪を揺らして優しく問いかける。

「よほど出来の悪い犯人なのでしょうか?」

「すごくドジな犯人なのか、それとも他に目的があるのか……」

「他の目的? 一体なんでしょう?」

「それがわからなくて……。最初は礼拝堂で天井やシャンデリアが落ちてきた……」

「父上のそばで巨像が倒れたり、頭上に鉢植えが降ってきた。私に矢が飛んできたこともありましたし、オスカーの剣が折れた」

 小さなノエルが口を出す。

「ボクがお池であそんでいたら、のってたお舟がしずんじゃったよ?」


 マユは持っていたカップをテーブルへ置く。

「すべてが故意じゃないかもしれません。事故だった出来事もあるかもしれない。でも王様の部屋に放火されたのは確実に故意ですよね?」

 アレックスは金色の長いまつ毛を伏せてテーブルを見つめる。

「窓から火を投げ込まれたのは、事故とは考えにくいですね」

「でも王様は無事だった。もしすべての出来事を故意と仮定したら、犯人は6回も失敗したことになります」

「よほど間抜けな犯人なのでしょう」

「間抜けにしては、いまだに捕まってないんですよね。そこがおかしいと思うんです。もしかして、他に目的があるんでしょうか……?」


 アレックスと王は互いの顔を見た。小さく頷く王を見て、アレックスが嘆息する。

「……私が思うに、これは長期的な計画だと思うのです」

「どんな計画だ?」王が問いかける。

「もしも父上がいなくなったら、どうなりますか?」

「次期の王はお前だ。それではやはり、お前が犯人なのか? アレックス」王は茶化すように笑いかける。

「あはは! 違いますよ! もし父上がお隠れになった後に、私が殺されたら?」


 皆は次の王位継承者であるオスカーを見つめる。オスカーは全員の視線に気づくと食べていたお菓子をゴクリと飲みこんで、顔を赤くして無言で首を横に振った。

「オスカーが犯人じゃないとしたら、ノエルが怪しいな!」楽しそうに王が言う。

「ボクじゃないよ! おとうさまのイジワル!」ノエルは可愛らしい頬をぷっと膨らませる。

 アレックスはそんなノエルを見て、可愛くて仕方ないというように青い目を細めた。

「全員殺されてしまったとしたら? どう思いますか? マユ」


 急に話を振られたマユは食べようとしていたマカロンをあわてて皿へ戻す。

「え、でも4人ともいなくなったら、いったい誰が得をするんですか?」

 アレックスは目にかかる金髪の前髪を指でく。

「父上、私たち王子がいなくなったら王位はどうなるのですか?」

「私とお前たちがいなくなれば、王弟のジェイコブが王になるな」

「そうです。王位はジェイコブ王弟へ移り、以後は王弟一族が王の血筋となります」


 マユは首をかしげる。

「でもジェイコブさんが王位を狙っているとしたら、もっと早く行動を起こしたんじゃないですか? どうして今ごろ?」

 アレックスは嬉しそうに青い目をきらめかせる。

「やっぱりマユは聡明ですね! そういうところが大好きですよ♡」

「私の好き嫌いは関係ないです! なんで今なんですか?」

「ジェイコブ王弟も、その王弟子息のカールも犯人じゃないとしたら?」

「えっ!? また誰もいなくなっちゃうんですか!? 誰も犯人じゃないんですか!? 今まで起こったことはすべて事故で、故意じゃなかったってこと!?」

「放火は事故とは言いにくいですねぇ!」

「でも王位を狙っている人が全員いなくなるんでしょう? ……でも、もしも……。もしもカールさんに子どもがいれば、その子は王になれますね。でもカールさんは、まだ婚約発表もしてない」

「カールは奥手ですからね。婚約にこぎつけただけでも周囲は驚いています。おそらく今の時点で子どもはいないでしょう」

「それじゃやっぱり、犯人は誰もいないですよ??」

「マユは王になりたい者だけを考えているからですよ」

「え? 犯人は王位を狙っているわけじゃないんですか?」

「王位を狙っているけれども、自分が王になることを目的にしていないかもしれませんよ」


 マユは腕組みをして考える。

「んんん? 自分が王様にならないのに、王位を狙っている?? ぜんぜん意味がわからないんですけど」

「王位継承者だけでなく、その家族も考えてみたらどうですか?」

「家族……。でもジェイコブさんも息子のカールさんもいなくなるのでしょう?」

「そうです」

「そしたら残るのはカールさんの妻のコリンナさん……」

「そうなりますね」

「ちょっと待ってください。コリンナさんと聞いて、何か引っかかることが……」

「なんでしょう?」


 楽しげに微笑むアレックスを見ていたマユがはっとした。

「コリンナさんの父親って、バラルディ公爵ですよね!? もしかしてバラルディ公爵ですか!?」

「さすがマユ! でも私は名前は出していませんよ♪ww」

「……王位が王弟一族へ移れば、バラルディ公爵の一人娘のコリンナさんは未来の王妃ですよね?」

「言われてみれば、そうですねぇ~♪」

「もしもコリンナさんが男の子を授かればその子は未来の王に……」

「まぁ順当にいけばそうでしょうねぇ~♪」

「バラルディ公爵は未来の王のおじいさんになる……」

「そうですね♪」

「でもそれってずっと後の話ですよ? 公爵はそんなに気の長い計画を!?」

「さあ、どうでしょう? けれどもしバラルディ公爵が犯人なら、マユの言っていたどうして今なのかという問題は解決できるかもしれませんねぇ~♪」


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