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ドングリ水は、甘くて素敵な飲み物です♪

「私……? もしかして私が死んだら帰ってこられるっ!?」

「ぐっ! まぁ、そうだ」

「私が死んだら帰ってこられるっ!? 私、愛してくれる人が誰もいない上に、ガングさんに殺されるのっ!?」

「ワシは殺さねぇよ! 言っただろ!? ニャルの寿命は700年だ。もしマユが老衰で死んだとしても、じゅうぶん間に合う。マユを殺す必要はねぇよ!」

「私、誰にも愛されないまま、異世界で老いて死んでいくんだ……」

「なんならこっちで幸せになればいいじゃねぇか! さっきマユを店に連れてきてくれたカッパと結婚したらどうだ? アイツ独身だぞ?」

「カッパと結婚っ!?」

「考えようによっちゃ楽だぞ! アイツ、7日に1ぺんくらいしかしゃべらねぇし、ズッキーニさえあればご機嫌だ! メシを作る手間もいらねぇ!」

「7日に1回しか喋らないカッパ……。プロポーズまで、いったい何年かかるんですか……。待ってる間に、死んじゃいますよ……」

お先真っ暗でカウンターに突っ伏すマユであった。


難しい顔をして黙り込んでいたルウが口を開いた。

「……うちのカアチャンのせいで気の毒だとは思うけど、とりあえず今の生活をどうするか考えたら?」

「ルウはイイコト言うな! それでこそワシの息子だ!」

「親父、うるさい。それで衣食住はどうするの?」

「いいぞ! ルウ! 目の付け所が素晴らしいぞ! もともとニャルの気まぐれでメイワクかけてんだから衣食住は心配すんな! ワシがちゃんと面倒みる!」

「マユは、それでいい?」

突っ伏したまま、くぐもった声でマユは答える。

「……お願いします。道に落ちてる小石より役に立たない私ですが、お世話になります」

「情けねぇコト言うなって! さっき店を手伝ってくれたじゃねぇか! 助かったぜ!」ガングは葉巻を振りまわす。

「いえいえ私など、息をしているのが申し訳ないです。何の役にも立たないのに、酸素を消費するなど、許されない行為であります。もう消えたい……」


ゴツン!

ルウのゲンコツがマユの頭に炸裂した。

「イタっ!」

「……痛いか? それなら生きてる。生きてるなら死なないようにしろ!」

「そんなコト、言われても……」


 勢いよくドアが開いた。

「店は開いてるかいっ!? みんなゴキゲンかいっ!? ドゥワーフ族の希望の星☆ ドリドリさま参上だよん!」

チョコチョコ歩いてマッチョな小男が入ってきた。ゴワゴワした長い髭をたくわえ、帽子の下から尖った耳が突き出ている。太い両腕を振りながらカウンターに近づくと、ヨイショとスツールによじ登る。

「開いてるも何も、いまお前が勝手に開けただろうが!」ガングがつっこむ。

「ドハハ! ちげぇねぇ!! ここでダズッチャと待ち合わせしてんだよん!」

「店は準備中だから食べ物はないぞ。飲み物は何にするんだ?」

「ドングリ水をおくれよん!」

「オマエ、酒じゃねぇのか!? 珍しいな!」

「バカ言ってんじゃねぇよん! ダズッチャが相談したいコトがあるってよん!」

「だから飲まないのか?」

「そうだよん♪ 大事な親友の、大事な相談だからよん♪」


 ドリドリは出された甘いドングリ水を一気に飲むと「たまにはノンアルも、うめぇよん~!」と言いながらヒゲを拭った。おかわりを注ぎながらガングが尋ねる。

「ダズッチャと何時に待ち合わせなんだ?」

「三時だよん♪」

「もう四時だぞ?」

「ドゥワーフ時間はゆっくりだよん♪ オロロ? その、おねぇちゃんは誰だよん? 髪も目も真っ黒だ! めずらしいよん!」

ガングが答えようとすると店のドアが開いた。


「…………」無言のドゥワーフがトボトボ入ってきた。挨拶もせずスツールによじ登る。

「よう! ダズッチャ! なに飲むよん?」

「…………」

「酒っ!? オメェが酒を呑んでるのなんか、一度も見たことねぇよん!?」

「…………」

「酒でも飲まなきゃ、やってらんねぇってか!? やめとけよん!」

「…………」

「仕方ねぇ。ガング、エールを一杯たのむよん」


 マユが小声でルウに尋ねる。

「ダズッチャさんは一言も話してないのに、会話が成立してますけど?」

「あれが2人の平常運転。何でダズッチャの言いたいことがドリドリにわかるのか、誰にもわからない」ルウは小声で答える。


 ダズッチャは出されたエールを一口呑むと、ゴホゴホと盛大にむせた。

「だから言わんこっちゃねぇ! 飲み慣れねぇ酒なんか呑むからよん!」

「ほっといてくれっちゃ! 呑まんとやっとれんっちゃ! オラ、自分が情けないっちゃ!」

 たった一口呑んだだけで、すでにダズッチャの顔も耳も真っ赤になっている。そんなダズッチャを見ながら、マユとルウは小声でささやき合う。

「急に話しだしましたね……」

「ダズッチャがしゃべるのを初めて見た……!」

 ダズッチャはコップに口を付けず、眉間にシワを寄せている。ドリドリは心配そうだ。

「どうしたよん? えらく難しい顔してるよん?」

「…………ううう……」

 ダズッチャの頬を涙が伝った。涙はとめどなく溢れてヒゲを伝い、カウンターに落ちる。

「ダズッチャおめぇ、泣いてんのかっ!? どうしたよんっ!?」


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