毒入りケーキのお味は?
貴族たちは息をのんだ。
「トリカブト!? 毒じゃないか!」
「そんなものが入ったケーキを食べたら大変なことになってしまう!」
「王や王子を始め、ここにいるのは我が国の要人ばかりですぞ!」
「毒入りケーキで議会がストップするなぞ前代未聞だ!」
「議会どころか国の存亡に関わる!」
「マユ様、これはどういうことですかな!?」
「やはりあの噂は本当なのか?」
「魔法で毒を作っているとか!」
「夜なよな呪いの儀式をしているという……!」
「黒い魔女という話は……!?」
ケーキを食べそこなったトーマス子爵が席を蹴って立ち上がり、太った指を突き出した。
「マユ様、せっかくの機会です! 申し開きができるのならば、この場でして頂きたい!」
「魔女だという噂はどうなのですか!?」
「ぜひともお聞かせ願おう!」
詰め寄る貴族たちの勢いにのまれマユは顔色を失っている。
「わ、わたしは……」
ダンッッッ!!
テーブルを激しく叩いて激昂した王が立ち上がった。その身体からは怒りの焔が立ちのぼっているかのようだ。
「黙れ! マユの潔白を信じられない者は王の私を疑う者だ! この王に盾突く者は反逆者として容赦せぬぞ!」
王の剣幕に黙り込む一同。アレックスは王の意見を後押しするように、氷のような冷たい目つきで貴族たちを凝視している。マユは何とか場をおさめようと口を開いた。
「私は毒なんて入れてません……」
マユの言葉にかぶせて王が断言する。
「わかっている! マユは行き当たりばったりな性格だ! 事前に毒を準備してケーキに混入するなど手の込んだことはできぬ!」
アレックスも深く頷きながら同意する。
「たしかにそんな用意周到なことは難しくてマユにはできません。私が保証します」
マユの目が点になる。
「二人ともかばってくださるのはありがたいのですが、私のことをバカだとディスってませんか?」
肩で息をしていた王はため息をついて椅子に座ると命じた。
「セヴィ、ここへケーキを持ってこい」
セヴィは立ったまま無表情に答える。
「お食べになるつもりですか? 万が一にも我が王を危険に晒すことはできかねます」
「いいから持ってくるのだ! 私が毒見をしてマユの潔白を証明する!」
マユが王の所へ駆け寄る。
「王様! それはダメです! 私が自分で食べますから! 私にケーキをください!」
二人のやり取りを聞いていたセヴィは無表情な顔で銀の盆に乗った皿を見やった。そしてケーキを筋張った細い指でつかむと……、
ガブリ! 大口を開けてケーキにかぶりついた!!
唖然として動けない一同を横目に王はセヴィの所へ走り寄り、ガクガクと肩を揺さぶる。
「うわああああ! セヴィ! 何ということを! 吐き出せ! 吐き出すのだ!」
セヴィは王に揺さぶられながらも首を横に振ると、ケーキを咀嚼して飲み込んだ。
「わたくしを家族と呼んでくださる慈悲深い王を危険に晒すことはできません。マユ様も同様です」
マユが悲痛な声をあげる。
「だからと言って食べなくても! 私は入れてませんけど、もし本当に毒が入っていたらどうするんですか!?」
「だからこそ、でございます。我が王とマユ様を危険な目に遭わせることはできません」
「セヴィ! 吐き出せ!」
セヴィはナプキンで上品に口を拭いた。
「トリカブトで間違いありません。甘い砂糖に紛れていますが、かすかに辛味がします。すぐに代わりの菓子をお出しします。申し訳ございませんが口が痺れてまいりましたので、わたくしは失礼いたします」
セヴィは唖然とする一同へ静かに一礼すると部屋から出ていった。




