愛って、なにさ?
「いるぜ。魔女とかドゥワーフとか、いろいろ暮らしてる」
「どれも空想の生き物だと思ってましたけど……」
「マユの住んでたパンドラにもいるぜ。うちのカアチャンとマユみたいに、入れ替わりはちょくちょくあるからな」
「そうですか……。あの、ニャルさんが、欲しいモノって何ですか?」
「なんだったっけ? ルウ?」
「……スタバの新作フラペチーノ」
「えええっ!? 私の『死にたい』と『スタバ飲みたい』がおんなじレベルっ!?」
ガックリ肩を落とすマユを気の毒そうに見るガングとルウ。ガングは葉巻を吸うと、目を細めて煙を吐いた。
「マユは死にたかったのか……。まあ、アレだ……。 アレって何だっけ、ルウ?」
「……これも何かの縁」
「そう! ソレだ! やっぱりルウは賢さんだな! コレも何かの縁だ! ニャルが帰ってくるまで、マユはこっちでゆっくりするといい」
「ニャルさんはいつ帰ってくるんですか?」
「ワシが愛を山ほど送ってるから、すぐだ!」
「愛?」
「そうだ! 愛だ!」
「愛…………?」
説明を求めてルウを見るマユ。ルウはため息まじりに説明する。
「……行くときは、マユとカアチャンの気持ちが釣り合えばいい。でも帰るときは、愛が必要なんだ」
「愛って?」
「………………相手を大事に想う気持ち」
言いながらルウの顔が真っ赤になる。愛を語るにはまだ若すぎるようだ。そのようすを見たガングは大喜びで笑う。
「ガハハ! ルウ坊は可愛いなぁ~! トウチャンは、ルウのことも愛してるぞぅ♡」
「うるっせぇ! クソ親父!」
「そういうワケだ! ワシが『ニャルを愛してる♡ ニャルに会いたい♡』と思えば、ニャルはすぐ帰ってこられる!」
「私は?」
「なんだ?」
「私のことを愛してくれる人がいなかったら、私はどうなりますか?」
「もし誰もマユを愛してないなら、マユはパンドラに帰れねぇ。マユが帰れねぇなら、ニャルも帰ってこれねぇ」
「げ。」
「でも一人くらい、マユを愛してるヤツはいるだろ? 今まで帰れなかったヤツの話なんて、聞いたことねぇぞ?」
「終わった……」
カウンターに突っ伏すマユ。
「マユ、どうした?」
「私を愛してくれる人は……、誰もいません」
ガングの葉巻から灰がポロリと落ちる。
「誰も愛してくれない? どういうこった……?」
「私、天涯孤独なんです。それに本ばっか読んでたから、友だちも恋人もいません」
「マジか?」
「マジです……」
「訊いてスマンが、なんで死にたいと思ったんだ?」
「編集さんから原稿にボツ喰らって……。一生懸命書いたのにダメって言われてショックだったし、小説が完成しないとお金はもらえないから、アパートは追い出されるし……」
ガングがマユを指差した。
「それだ! 編集さん! マユには編集さんがいるじゃねぇか! 編集さんがいなくなったマユの心配をしてくれたら、それは愛だ!」
ルウが横から口を出す。
「カアチャンがマユのふりをして生活するから、マユはいなくならないだろ」
「おぉ! そうだった! でもニャルに原稿は書けねぇぞ! だから原稿が書けないマユを編集さんが心配してくれたら、それは愛だ!」
「ダメ出し直後だから、このあと数カ月は連絡ナイです。それに原稿を送らなかったら、そのまま忘れ去られると思います……」
「そうかぁ……」
「そうです……」
「………………」
うなだれる3人。
「打つ手ナシだな」
楽天的なガングが負けを認めた。マユは顔を上げる。
「でもニャルさんはっ!? 私はいいとしても、ニャルさんは帰れないと困るでしょう!?」
「ニャルは大丈夫だ。何にでも変身できるから、どこに行っても生きていける。それに……」
なぜかガングは言いにくそうだ。マユが訊き返す。
「それに?」
「あ~、そのぅ~……ニャルの寿命は長い。700年以上生きる。しばらく帰れなくても、必ず帰ってこられるからよ」
「必ず? どうやって?」
「まあ、アレだ。マユに何かあったら……」