女の嫉妬は怖い……。
女王は気に入らないようすで小さく鼻を鳴らすと、紅茶のカップへ顔を近づけ茶葉の香りを吸いこみながらさりげなく切り出した。
「昨日、プランタジネットとザクセンの両国で行われた会議に、あなたもお出になられたの?」
答えに困ったマユが黙っていると、王がにこやかな表情で口をはさんだ。
「結婚の儀へ向けて両国で流れを確認しただけで、会議というほど大層なものではなかった」
「そうですございますの?」
笑って緑色の瞳を細めた王は、不満そうな女王に笑いかける。しかし目の奥は笑っていない。
「それにしても不思議だ。ごく内々の話し合いだったのに、なぜカベーの女王がご存じなのだ?」
「…………」女王が答えずにいると、長女のベレニスが強引に会話を変えた。
「アレックス様もそろそろお年頃ですわね。結婚をお考えになったことは、おありになって?」
美しい王子は苦笑しながら答える。
「まだ考えていませんし、お相手も見つかっていませんし」
そう言いながらも青色の瞳でマユを見て、意味ありげな表情でにっこり微笑む。王子の視線を無視して紅茶を飲むマユを、ベレニスは睨みつけていたが強い意志の力でむりやり笑顔を浮かべた。
「まあ! それならアタクシが立候補いたしますわ! アタクシとアレックス様は王族ですから格も同じですし!」
「家柄でお相手を選ぶのは、やめにしました……」
言いかけた王子を無視して王女ははしゃぐ。
「きっと両国の民たちも喜びますわ! 国をあげてのお祝いになりますわね! レティシア様のように!」
「いえ私はあなたとは……」
アレックスがベレニスを拒絶しようとするのを察した女王は顔をあげて大仰な声を出した。
「レティシア様といえば! 儀式や披露宴の準備が大変でしょう!?」
「ああ。まぁそれなりに……」王は紅茶を飲みながらあいまいにうなずく。
「王妃がご存命でしたら女性らしい配慮もできるのでしょうけれど、男性ばかりで何かとお困りでしょう? 及ばずながらあたくしがお役に立ちたいですわ!」
「気持ちだけありがたく……」
「儀式や披露宴のために、たくさんの者をお使いになるのでしょう?」
「ああ」
「人を集めていらっしゃいますの?」
「まあ、そうだ」
「けれども人を集めても、何の仕事ができるのか聞き取るだけで一日が終わってしまいますわねぇ!」
「…………」
「儀式と披露宴で何千人と必要ですから難航しますわね」
「…………」
王は答えず紅茶を飲む。苦い顔をしているのは紅茶が理由ではないらしい。
女王は王の苦い顔を見て、我が意を得たりとほくそえむ。
「人を配する悩みは、人の上に立つ者としていつでも頭の痛むことですわ……。ねぇ、マユ様?」
「うぇっ!? あ、はい! ゴホゴホ!」
のんきにクッキーを食べていたマユは、突然の呼びかけにクッキーを詰まらせる。女王はそんなようすを見てバカにしたように細い肩をすくめ、猫なで声で続けた。
「王がお困りですわ。どうしたらいいと思われます?」
「そ、そうですねぇ……。どうしたらいいでしょう……?」
答えられないマユを見て女王と王女たちは意地の悪い笑みを浮かべる。
「王を助けて差し上げては? それともパンドラから来た方には難しい質問かしら?」
「…………はい」
しょんぼりうつむくマユを女王はさらに追い詰める。
「マユ様は、何かお仕事をするためにお城へ滞在なさっているの?」
「ぐ……! 仕事はしたいと思っています! どんな仕事でもします!」
「それなら王の困りごとを解決してくださいな! そうでないとあなたがお城にいる意味がありませんわ! パンドラへお帰りになってはいかがかしら!?」
(怖い! 怖い! 怖い!)
ここぞとばかりに責め立てられて、マユは恐怖で震え上がった。




