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宴もたけなわ?

 処刑されるアンドレア王子とレティシア王女は、すべてを受け入れたように静かに座っている。そして三人の美しい王子たちはうつむいて肩を落としている。


 マユは声をあげた。

「みんな国のために良かれと思ってやったことでしょ!? 二人が処刑されるなら身代わりになった私だって同罪です! 私も処刑されます!」


 アレックス王子が疲れた顔で、父王に口を開いた。

「父上、査問会のようすをマユに話してあげてください」

 プランタジネット王は頷く。

「私は当事者であるから発言はしなかった。それはアンドレア王子とレティシアも同じだ。私たちはどんな罰も受ける」

 アンドレア王子とレティシアは顔を伏せたまま、小さく頷いた。


 王は話し始めた。その口調は重く、疲れが滲み出ている。

「ザクセン王と両国の査問会は、滝壺で二人が出会って唇を重ねた時点で婚姻が成立するとした。夫婦になった二人が婚約の儀を執り行う必要はなく、儀式での失態は不問に付すということだ」

「えぇっ!? 良かった!」


 意外な結末に、マユが歓喜の悲鳴をあげる。しかし王は厳しい顔を崩さない。

「そしてレティシアの不在を隠すために、マユに身代わりを頼んだことも罪には問わないと」

「願ったり叶ったりですよ!」

 勢いづいたマユは激しく同意する。

 反して王は、苦々しげに言葉を吐き出す。

「本当に危ない場面だった。我が国はザクセン王国を騙そうとしたのだから、両国が戦争になってもおかしくない状況だった」

「そうですよね。それなのになぜ戦争を回避できたんです?」

「マユはザクセン王国のバラルディ公爵を覚えているかね?」

「はい……。ザクセン王の代理で来てた方ですよね。私が神様の名前を間違えた時に、すごく怒ってた……」

 公爵から鬼のような顔で責め立てられた記憶に、マユは身を縮める。


「バラルディ公爵はマユが正しく神の名を言ったと、自分の聞き違いで事を大きくしてしまったと証言してくれたのだ」

「そんな! あれは私が間違えて……!」

「ザクセン王も、間違いがあったのは聞き及んでいるはず。けれども我が国の失態を無かった事にしてくれたのだ」

「……ありがとうございます」


 王は大きく息を吸った。これから重大な事を口にする合図のように。


「…………ただし儀式を行った事については、罪に問われた」

「えっ!? そんな!」

「すでに婚姻が成立しているにも関わらず、不要な婚約の儀を行ったことは両国の民を不安に陥れる悪しき行為であると判断された。結果、アンドレア王子とレティシア王女は公開処刑に処せられることになった」

「公開処刑だなんて、厳しすぎます!」

「もう決まった事だ」王は険しい顔で答える。

「じゃあ私も処刑されます! もとはと言えば、私が身代わりになったのですから!」

「マユは処刑できないのだ」

「どうしてですか!? 私だけ一人で逃げるなんてズルイです! 私も罰してもらいます!」

「無理だ!」

「無理じゃない! 私は一人で逃げたりしないです!」


 口では格好の良いことを言っているが、不安でブルブル震えている。顔から血の気が引いて、今にも倒れそうだ。


(逃げたい! ほんとは逃げ出したい! でも逃げない!)


 逃げたい気持ちと困難に立ち向かおうとする意地がぶつかり合って、涙がとめどなく溢れてくる。ボロボロこぼれる涙を拭くこともせず、マユは言い切った。


「私は逃げない! 私も処刑してください!」



 王は涙でうるんだ目を瞬かせると、静かに断言した。

「不可能だよ、マユ。結婚式は二人でするものだ」

「え?」

 マユの目が点になった。


「公開処刑として、華々しい結婚式典を執り行う事が決定した。不要な婚約の儀で混乱した両国の民たちが安心を取り戻し、両国の平和の礎を築く一歩となる盛大な式典にするよう、ザクセン王と両国の議会から厳命されたのだ」

「うぇ? 結婚式が処刑? 処刑ってギロチンとかじゃないんですか? お二人が首を斬られるとかじゃなくて?」


「ブフォッ!」

 三人の王子が噴き出した。アレックスがニコニコ顔で問いかける。

「マユはアンドレア王子とレティシアが首を斬られると思ったのですか?」

「だって処刑って言うし、皆さん、暗い顔してるから……」

「遅くまで話し合っていたので疲れただけですよ。それに両国の民から祝福してもらって平和を実現するために、しないといけない事は山ほどありますからね。本当に大変なのは、これからですよ!」


 マユは安心して腰が抜けてしまった。

「良かった……。ほんとに良かった……!」


 床に座り込んだマユを、プランタジネット王が優しく立たせる。

「これもすべて、マユのおかげです。だからマユ、レティシアたちの結婚式と一緒に、マユと私の結婚式も執り行いましょう。新しい王妃の誕生に、民たちは歓喜の声をあげるでしょう」


 王は深い緑色の瞳を期待に輝かせながら、マユの顔をのぞき込んだ。その表情は慈愛に満ちていると同時に、有無を言わせない王の風格が垣間見える。この堂々とした王の誘いを断ることなんてできる? まさか!


 アレックスはマユの手を取ると、にこやかに言った。


「お父様、申し訳ありませんがマユは私の妃になってもらいます。マユの素晴らしい発想と、困難に立ち向かう勇気に惹かれました。私はマユに一生の忠誠と愛を誓います」


 そして絹のような美しい金髪を揺らしながら、マユの手に思いを込めた情熱的なキスをする。冷静さと情熱が同衾する魅惑的なこの王子の愛情を、拒絶することができる人物などこの世に存在しないだろう。


 ノエルがマユの腰に抱きつく。


「ダメだってば! マユはボクのおよめさんになるの! ボク、いそいで大きくなるから、すぐだよ!」


 天使のような可愛らしい顔で、マユの顔を見上げる。今は幼い王子だが、誰もが振り返る魅力的な人物になるのは時間の問題だ。何よりすでに、母性本能をたまらなく刺激する術を無意識に心得ている。抱きしめて頬ずりしたい衝動を、マユは必死に我慢した。


 赤毛のオスカーは一同の周りをウロウロしている。マユの争奪戦に参加する気はあるものの、十代の繊細さでマユに触れることができないらしい。訴えるような切ない眼差しは、どんな人物でも思わずYESと言ってしまう魅力に溢れている。その魅力を自覚していないだけに、破壊力は抜群だ。目を合わせれば断れなくなるので、マユは必死で視線を逸らす。でももしも目が合ってしまったら、どうしよう!? マユは落ち着かない気分で、宙に視線をさまよわせた。


 麗しい四人に囲まれて、とうとうマユは声をあげた。






















「ムリです! 結婚なんて、ムリですってばああああああ!!!!!!」


 広大な城に、マユの悲鳴が響き渡った。



                        続く。



(この後も物語は進行中! しばらくお待ちください♪)



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― 新着の感想 ―
[良い点] レティシアとマユが似ているというのは、欧米人から見たら日本人はみんな同じに見えるのと同じ感覚だったんですね。 なかなかその発想は出てこないです、すごい。 [一言] マユはパンドラに帰れるの…
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