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そこ、間違っちゃダメです!

光輝く球体は、デカいダイヤモンドだった! マユが見とれていると、すぐ側で息を呑む気配がした。見ると、重厚なマントをまとったプラチナブロンドの美しい男性がマユを食い入るように見つめている。アクアマリンを思わせる美しい水色の瞳、すっと通った鼻筋、知的で形の整った唇、まるで童話に出てくる王子様のようだ。マユを見た興奮からか、目は輝き頬は赤く染まっている。


(王子様みたい……! ってか、本物の王子様だってば)

 マユは自分にツッコみを入れる。たくましい身体に張り付いた軍服に、煌びやかな勲章がいくつも並んでいる。尋常でない数の多さから、やんごとなき立場なのは一目瞭然だ。何より辺りの空気が変わるほどの威圧感を発している。


 美丈夫の王子は目を見開いてマユの顔を見つめている。その眼は喜びに輝いて、何か言おうと形の良い唇が開いた。手をさし出しながらマユのほうへ王子は足を踏み出した。

 マユが身構えた途端、王子の眼から光が消えた。上げていた手を下ろし、踏み出した足を元へ戻す。そしてマユを無視するように前を向いてしまった。


(その変わりようは何よ!? なんか知らんけど嫌われた!)

 王子のあからさまな変化は、マユと腕を組んでいる王も気づいたらしい。表情は変わらないものの、組んでいる腕がわずかに揺れた。


「婚約の儀を執り行います」

 緋色のローブをまとった枢機卿が宣言した。

 

 祭壇の前に置かれた台座に、レモンほどの大きさの石が二つ置いてある。見た目はガラスの塊のようだが、まだカットしていないダイヤの原石だろう。枢機卿は祈りを捧げると聖石に祝福を与え、一つを手に取るとうやうやしくマユに手渡した。


「プランタジネット王国のレティシア王女様、婚約に際して誓いの言葉を」

枢機卿の呼びかけに、緊張したマユは口ごもる。祭壇にあるダイヤより小さいとはいえ、手の中にあるのは莫大な金額のダイヤモンドだ。


「……天空神……」

 その後が思い出せない。あんなに何度も聞いたのに! 思い出せないことでパニックになり、マユの頭は真っ白になった。枢機卿は口をパクパク動かして、答えを教えようとする。

(ユ……パクパク)

(思い出した!)

 マユの顔が輝いた。枢機卿に感謝の笑顔を送る。枢機卿はほっとした顔で、先を促した。

マユは息を吸いこんで、口を開いた。


「……天空神ユディアボルスの名において……」

 言った途端、場内がザワついた。

「ユーピテルではなく、ユディアボルスとは!?」

「神聖な儀式で、邪悪神の名を呼ぶとは!」

「なんと不吉な!」

(あわわ! 間違えた!)

 取り返しのつかないミスをしてしまったマユは震え上がる。


「お待ちなさい!」

 最前列で怒声が響いた。ザクセン王国の名代、バラルディ公爵が怒りで震えている。

「いま王女が口になさったのは邪悪神の名です! 神をも恐れぬ大罪! 我が国との婚姻を何と心得る!?」

「ご、ごめんなさい……」

 公爵が剣を抜いた!

「我が国を呪うとは許すまじ! かくなる上は、死して詫びてもらおう!」

 プランタジネット王が身体を張ってマユをかばうのと同時に、アンドレア王子が公爵の前へ飛び出した。


「バラルディ公爵、やめろ!」

「しかし王子……!」

「レティシア王女は確かに天空神ユーピテルと仰った! 何も問題ない! 公爵の聞き間違いだ!」

 アンドレア王子の迫力に、公爵は押され気味だ。

「ですが……!」

「構わん! 枢機卿、続けてくれ!」


 王子はバラルディ公爵を無視して祭壇へ向き直った。しかし急に力が抜けたようにうつむくと、肩を落としてつぶやいた。

「いや、続けることはできない。この婚約は……無効にしてほしい」

 バラルディ公爵が大声で同調する。

「そうだ! 邪悪神に神聖な婚約を誓うなど、到底許されることではありません!」

「違う! 私が……、私が悪いのだ」

「王子っ!?」

「私には、想い人がいる……! だからレティシア王女と結婚することはできない!」


「えええええええええっっっ!?」


 王子の告白に一同は驚きの声を発した。


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