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本番スタート!

 朝露の降りた暗い庭園の中を、セバスチャンがランプを照らして礼拝堂へ先導する。明かりに照らされた色とりどりの薔薇は今が盛りと咲き誇り、麗しい芳香を放っている。真っ白な石畳の左右には、そこここに巨大な大理石の彫像が配してある。伝説の神々だろうか。慈愛に満ちた美しい女神や、馬を駆る戦神が一行を見下ろしている。薔薇の芳しい空気の中でマユと腕を組んでいるのは、プランタジネット王だ。オスカー王子とノエル王子は、少し離れて後ろからついてくる。

 王は輝く銀髪で、考え深げな緑色の瞳をしている。がっしりしたアゴに意思の強さが表れて、一国の君主たる威風を放っている。背の高いたくましい身体に、第一礼装の軍服がよく似合う。王は右手に王錫を持ち、胸元の勲章を揺らして堂々と歩きながら、腕を組んでいるマユに礼を言った。


「マユさん、ありがとう」

「いえ……」


 オスカーのプロポーズ・ショックから立ち直ってないマユは、うわの空で返事をする。


「マユさんのおかげで、誰もレティシアの不在に気づかないでしょう。父親の私が見ても、愛娘と見間違うほどです」

「はあ……」

「レティシアにも似ていますが亡くなった私の妻、王妃にもそっくりです」

「そうですか……」

「久しぶりに王妃と会えたようで、私の胸は高鳴っています」

「はい……」

「マユさん、私の妻になって頂けませんか?」

「えっ!?」

「マユさんに会えたのは、天空神ユーピテルのお導き。二人の出会いは運命です。私と結婚してください」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!」


 思わず腕を放したマユに、先導しているセバスチャンが前を向いたまま告げる。

「マユさま恐れ入りますが、殿下と組んでいる腕をお放しになりませんよう。間もなく礼拝堂に到着致しますので」


 プランタジネット王はニッコリ笑うと、マユの腕を優しく取って自分の腕に巻き付けた。

「マユさん、後で二人と国の将来について話しましょう」


 昨日から続く求愛ラッシュに、マユは倒れそうだ。フラフラしながら歩いていると、暗闇の中に大きな尖塔を配した建物の輪郭が見えた。一行が立ち止まると、アーチ型の重厚な扉が左右に開いた。


 薄暗い蝋燭ろうそくの光に照らされて、軍服や燕尾服、ドレスで正装した貴人たちが浮かび上がる。まるでレンブラントの絵画のようだ。内々の儀式とは言うものの、五十人はいるだろう。荘厳なパイプオルガンの音が場内に鳴り響く。重々しい雰囲気に気おされて下を向くマユの耳元でセバスチャンが囁いた。


「儀式に参列する方々をお伝えしておきます。祭壇の前にいらっしゃるのがアンドレア王子と、式をつかさどるエバンズ枢機卿でございます。右側最前列のバラルディ公爵はアンドレア王子のゴッドファーザーで、ザクセン王の名代として列席なさっています。左側の最前列に、オスカー王子とノエル王子。アレックス王子はまだ静養の城からお戻りになっていません。その他、両国の王族、貴族、騎士団、宰相など両国の大臣が列席しています」

「すごいメンバーですね……」

「それでも今日は内々の儀式なので、隣国のザクセン王は不在です。リラックスして式にお臨みください」

「はあ……」

 そう言われてもマユの緊張は増すばかりだ。パイプオルガンの音色が途切れ、曲調が変わった。


 プランタジネット王はマユの腕を優しく叩くと、耳元で囁いた。

「さあ行きましょう! 天空神ユーピテルに幸いあれ!」

 王は足を踏み出した。マユは覚悟を決めて、うつむいていた顔を上げた。

「っっっ!?」

 燭台の蝋燭で照らされたうす暗い祭壇に、まばゆく光る球体が鎮座していた。それは人の頭ほどの大きさで、目も眩むような光を発している。

(なんだ!? ミラーボールにしては凄すぎる!)

 球体は無色透明だが、反射する光は七色に輝いている。煌めく美しさにマユは我をを忘れた。球体の輝きに引き寄せられて歩くマユを、王はさりげなくエスコートする。通路に敷き詰められた薔薇の花びらを踏んで、二人が輝く球体の前に立つと、音楽はやみ場内は静まり返った。


「げ」


 沈黙を破って思わずマユは口走った。


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