バーサは肝っ玉カアチャンのようです
乳母のバーサに案内された広々とした部屋には、豪華な天蓋付きのベッドに、芸術品のように華麗な彫刻を施した鏡や化粧台がある。優美な曲線を描いたテーブルやソファが置かれ、こちらの部屋にも大理石作りの暖炉の飾り台の上に、花瓶に生けられた白薔薇が咲き誇っている。レティシアの寝室だろう。
「この椅子にお座りくださいませね♪ すぐにお召し物を準備しますから♪」
バーサはそう言うと、ドアの奥へ消えていった。壁一面に掛けられた美しいドレスが見えたので、衣装室だろう。
「さあさあ、お着替えですよ♪」
バーサは両手いっぱいに高価な絹の布を抱えて持ってきた。
「そのお洋服は、脱いでくださいませね♪」
「え……えっと? バーサさんの前で脱ぐ?」
「もちろんでございますことよ!」
「どれを着るか教えてもらえば、自分で……」
「まあ! マユ様は独立心が旺盛ですこと! それでこそ今どきの女性ですわ! 素晴らしい!」
誉め言葉とうらはらに、バーサは手早くマユのシャツのボタンを外す。
「コルセットなどがありますから、お一人では無理ですわ♪ このバーサがお手伝いします♪ いつもは若い侍女たちがお手伝いをするのですけれど、秘密を知る者は少ないほうがよろしいですからね♪」
あきらめて下着姿になったマユの前に、ひざまずくバーサ。艶やかな絹製のズボンのような衣を、マユが履きやすいよう広げた。
「さあ、その小さな布はお取りください♪」
「パンツは、カンベンしてください!」
「ナンセンス! それを脱がないと後で困りますことよ!」
「後って?」
「自然に呼ばれた時ですわ!」
「自然?」
「用を足すときにドレスやペチコートが邪魔をして、下着に手が届かないってことですわ!」
バーサの勢いに負けてマユはしぶしぶ脱ぐと、急いでズボンのような下着に足を通したが、股上の部分が縫い合わされてない。
「あの……。足と足の間が、スースーするんですけど……?」
「おほほ! もちろんですわ! そうでないと、自然の呼び声に答えられませんもの♪」
「でもこれじゃあ、何かのひょうしに大事な部分が見えちゃう……!」
「ほほほ! マユ様は面白いことをおっしゃいますね! マユ様がドレスもペチコートもパニエもめくりあげて足を広げない限り、具は見えませんことよ!」
「具……!」
「さあさあ、コルセットをお付けしましょう!」
その後は拷問だった! あっちを締め上げられ、こっちを締め付けられ、鳥かごのようなモノに足を突っ込まされ、幾枚ものレースを巻き付けられたかと思うと、宝石やリボンで飾られた大仰なドレスをかぶせられ、また締め上げられた!
「バーサさん……く、くるしい!」
「ほほほ! すぐに慣れますことよ! それに苦しくて気絶したら、儚い女性を演出できますわ♪」
衣装を装着したマユを見て、バーサは難しい顔をする。
「レティシア様と何かが違いますね……」
「……王子たちが言うには、胸のあたりが……」
「まああ! 本当ですわ! マユ様、どこかに胸を置き忘れていらしたのですか?」
「たぶん産まれるときに母親の胎内に……」
「次に生まれ変わる時は、忘れずにお持ちあそばせ!」
「いや、そもそも巨乳の家系じゃないし……」
「すぐに代わりをお持ちしますね!」
バーサは足早に出ていったかと思うと、両手に何か持ってすぐに戻って来た。
「ごめんあそばせ♪」バーサが何かをマユの胸元に突っ込んだ。
「熱いっ! 何ですかコレっ!?」
「焼き上がったばかりの丸パンですわ♪ おなかが空いても食べないでくださいませね♪」
マユの胸元は大いに盛り上がり、焼き立てパンの食欲をそそる香りが立ちのぼる。
「………………」
「さあ! お化粧をいたしましょう!」
バーサはニッコリ笑うと、ペンキを塗るようなデカい刷毛を手に取った。




