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オスカーは照れ屋さんです♪

 マユは叫んだ。

「わかった! やるから!」

「本当か!?」

「この手を放してくれたら、身代わりになります!」


 オスカーが力をゆるめると同時に、その腕をはねのけて反対側の座席に倒れ込むマユ。ノエルは一飛びで座席に上ると再びマユの首に抱きつく。首からノエルをぶら下げたマユは、ゼイゼイと荒い息をした。


「私は何をすればいいの?」

「簡単だ! 姉さんのドレスを着て、黙ってればいい。姉さんが戻ってきたらすぐに入れ替わるから、ほんの数時間だ」

「もしお姉さんが見つからなかったら?」

「心配ない! マユがいてくれれば儀式は終わる!」


「おねえさまのドレス、マユに合うかなぁ?」

 ノエルがマユの胸元を見ながら言う。

「そこはテキトーに何か詰めればいいだろ」

「そだね♪」

 二人をキッと睨むマユを無視して、二人の王子はニコニコ微笑むのだった。 


 しばらく走ると馬車は、金色の装飾を施した豪華な門を通り抜けた。幾人もの衛兵が剣を捧げ持って敬礼しているのがチラリと見える。煌々と光るランプの光で、美しく手入れされた木々が暗闇に浮かび上がる。絶え間なく聞こえてくる水音は、いくつもある噴水の音らしい。馬車は大理石の石畳に蹄の音を響かせながら軽快に進んでゆく。しばらくすると、馬車は巨大な建物の前でゆっくり止まった。


「城に着いたぞ」オスカーがつぶやいた。


窓から外を見ると、漆喰と金で荘厳な装飾を施した建物が見えた。城は高すぎて、見上げても全体が視界に収まらない。横を向くと漆喰飾りを施された豪奢な窓が遥か遠くまで並んでいる。

「建物の終わりが見えない……」

 あまりの大きさに息をのむマユ。その首にしがみついていたノエルは、マユのほっぺにキスをした。


「な、なにっっっ!?」

「マユの幸運をいのってるからね! 天空神ユーピテルに幸いあれ!」

 ノエルはそう言うと馬車の扉を開けた。オスカーがマユを抱き上げる。

「自分で歩けるから!」

お姫様抱っこに抗議するマユ。

「つまずいたら大変だろ」オスカーは軽々とマユを抱き上げる。

「……お姫様抱っこ、すごく恥ずかしいんですけど……」

 オスカーの顔が真っ赤になる。

「俺だって同じだよ! でも大事なマユにケガはさせられないだろ!?」


 顔を真っ赤にした二人が馬車を下りると、樹々の香りがする冷気が心地よく頬をなでた。ギイイ……彫刻を施した重たい扉が左右に開くと、中から暖かな光があふれ出す。天井から吊るされた豪奢なシャンデリアが光を放っている。三人を出迎えた燕尾服の男性は、お姫様抱っこのマユを見ても顔色一つ変えない。男性は深いお辞儀をして一行を迎え入れる。マユが曖昧に頭を下げると、歩きながらオスカーが言った。


「セヴィ、マユを連れて来た」

「マユお嬢様、初めまして。執事長のセバスチャンでございます」

「セヴィさん? セバスチャンさん? ど、どうぞよろしく……」

「セヴィは家族同然だ。セバスチャンなんて長い名前で呼ばなくていい」


 それを聞いた執事は嬉しそうにニコリと微笑んだが、すぐ無表情な顔に戻った。

 オスカーは足早にホールを通り過ぎると、優美な弧を描いた螺旋階段を上った。後ろから音もなくセバスチャンがついてくる。厚い絨毯が敷き詰められた長い廊下を歩いて大きなドアの前に立つと、セバスチャンが白手袋をはめた手でドアを開けた。ここも華やかなシャンデリアに火がともされ、昼のような明るさだ。部屋の窓には幾重にもレースのカーテンが重なり、外のようすは見えない。広い部屋の中央に上品な猫脚のテーブルや、座り心地の良さそうなソファが据えてあり、壁際に可愛らしい書き物机が配してある。暖炉の飾り台に置かれた花瓶に一抱えもある白い薔薇が活けられ、華やかな香りを放っている。


「姉さんの居室だ」オスカーがつぶやいた。

 扉が開いて隣の部屋から、黒い絹のドレスを着たふくよかな女性が出てきた。お姫様抱っこを見て、目を丸くする。

「まあまあまあ! オスカー様の良い方でございますか!? なんておめでたいこと!」

「……バーサ、昨日ちゃんと説明したろう?」

「ほほほ! 冗談ですわ! マユ様でございますね! 本当にレティシア様と同じ御髪おぐしと瞳ですこと! ようこそ、ようこそ♪」

「マユ、こちらは乳母のバーサだ」


 紹介するオスカーの後ろから執事のセバスチャンが捕捉する。

「アーバスノット男爵夫人でございます」

 女性は丸々と肥えた手を口元へ持っていって、コロコロと笑う。

「大切な三人の王子の乳母です♪ アレックス様、オスカー様の乳母を務めて、今はノエル様のお世話をしています♪ アーバスノット男爵夫人なんて長ったるい呼び方で呼ばれても、自分のことだと気づきませんわ♪ どうぞバーサとお呼びください♪」

「バーサさん……よろしく」バーサの陽気に圧倒されたマユがつぶやく。 

「オスカー様、離れがたいのはわかりますけれど、マユ様を下ろしてください。着替えていただきますから」


 やっとオスカーがマユを床に降ろすと、ノエルが駆け寄って抱きついた。

「ノエル様も、しばらく我慢なさってくださいね♪ さあマユ様、こちらへどうぞ♪」

 バーサは太った身体に似合わない軽い身のこなしでノエルを引っぺがすと、王子たちを残して隣の部屋へ案内した。


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