ちっちゃなノエル君は、マユをおよめさんにすることにしました♪
ガングとルウが年長の二人を引きはがした。しかし幼い男の子は離れようとしない。あきらめたマユは左腕に男の子をぶら下げたままカウンターに座った。男の子の左に赤毛の美少年が座り、さらに左に金髪の美青年が座る。美しい三人が並んだ光景は壮観だ。どうなることかと驚いていた客たちは人違いだったと聞いて、興味を失って各々の会話に戻った。マユはまだ涙目で、ショックから立ち直ってないらしい。ルウは冷たい水をマユの前に置き、あとの三人にも水を配った。
年長の金髪美青年が平謝りに謝る。
「申し訳ございませんでした! 先程ありえない格好で町を駆け抜けるお姿に目を奪われ、あまりにも姉に似ていたので人違いとは思わず、一帯を探しまわっていたのです……」
ガングがマユに尋ねる。
「ありえない格好? マユは、どんな格好で走ってたんだ?」
「急いでいたので、ドレスの裾を持ち上げて……」
「もしかして足を出してたのか!?」
「まあ多少は……。でも太ももがちょっと見えたか見えないくらいで……」
ガングはのけぞる。
「太もも!? とんでもない! こっちじゃ貴婦人がヒザを見せるのは、一夜を共にしてもいいって意味だ! 太ももなんて見えた日にゃあ、見たヤツは責任取って嫁に迎え入れなきゃなんなくなる!」
マユの腕にしがみついた男の子が言う。
「だからボク、あなたをボクのお嫁さんにするよ!」
マユはのけぞる。
「ひえぇ~……! 知らなかったんです~! ぼうや、責任取ってくれなくて大丈夫だから離れて! ねっ!?」
「やだ!」
男の子は腕にしがみ付いて離れない。金髪美青年があわててとりなす。
「ノエル、やめなさい! 他に人はいませんでしたし、私たちもお顔にくぎ付けでしたから、足元は見ていません! どうぞご安心を!」
赤毛の美少年も騎士道精神を発揮する。
「兄さんの言うとおり、顔しか見てねぇよ! てっきり姉さんだと思ってたし!」
「でもおっぱいが小さいから、ボク、ちがう人だってすぐにわかったよ♪」
「コラ! ノエル! 静かにしろ!」
二人の少年が小突き合いをする横で、金髪の美青年が頭を下げた。
「私はアレックスと申します。こちらは次男のオスカーと、末っ子のノエルです」
「ワシはガングだ。こっちはマユと、俺の息子のルウ」
「ガングさん……? このお店の名前は……?」
「金の狼停だ」
「もしかして『金の狼ガング』でしょうか? あなたは勇者ガング氏ですか!?」
「ガハハ! 昔の話だ! 今は居酒屋のオヤジだよ!」
「愛する我がプランタジネット王国を救ってくださった勇者とお会いできるなんて光栄です!」
「救ったなんて、とんでもねぇ! 運が良かっただけだ!」
赤毛のオスカーが身を乗り出して握手を求める。
「すげぇ! 俺、ガングさんみたいな勇者になりたくて、剣を習ってます!」
「そりゃ嬉しいこった!」
ひとしきり挨拶が済んだ後、ガングは尋ねた。
「おめぇさんたち良家のおぼっちゃんに見えるが、なんでこんな所をウロついてんだ?」
ガングに会えて喜んでいた三人の顔が曇った。アレックスが答える。
「ガングさんですから信頼して打ち明けますが、私たちはプランタジネット城の者です」
ガングが顔色を変える。
「プランタジネット城!? どうりで聞きおぼえのある名前だと思った! おめぇさんたち『美麗三王子』だなっ!?」
美青年は苦笑する。
「そう言って下さる方もいるようですけれど、誉めすぎでしょう」
「いや、名前にたがわず……」
ガングは美しい三人の王子をまじまじと見つめる。
「えぇっと、その……。おめぇさんたちの姉さんっていうと、レティシア王女だよな?」
「そうです」
「レティシア王女といえば、美麗三王子に負けない美しい姫様で『プランタジネット城の白薔薇』って呼ばれてるよな?」
「そういう噂は聞いたことがあります」
「そのレティシア王女と、マユが似てるって……?」
グラスを洗っていたルウが、ボソっとつぶやく。
「貧相なマユが王女に似てるなんて何かの間違いじゃないのか? って言いたいんだろ?」
「ルウ!」
「だって親父の言いたいことは、そういうことだろ?」
「ま、まぁな……」
美麗三王子は美しい眉をひそめてマユを見つめる。麗しい三人から見つめられて、マユは身の置き場がなく顔を赤らめる。
「私は姉のレティシアに似ていると思うのですけれど……」アレックスが言う。
「似てるどころか、まるっきり姉さんだよな……」オスカーが続ける。
「お顔はおねえさまなんだけど、おっぱいだけがちがうんだよね……」
ノエルの言葉に頷く兄たち。今まで照れていたマユは、半泣きの目でキッと三人を睨む。
声をひそめてガングが口を開く。
「王子ともあろう方たちが、こんな時間に護衛も無しで城から出て大丈夫なのか?」
「少々事情がありまして……」
「いや、事情は言わなくていい。ワシは聞かねぇ。もう城へ帰ったほうがいい」
ガングは話を終わらせようとした。




