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溺愛、始めました

 一同が和気あいあいと乾杯した後、金の狼停は開店した。ガングは料理を作り、マユとルウは飲み物や料理をテーブルへ運ぶ。ダズッチャの宝石さわぎをドリドリは大きな身振り手振りで話し、彫金師のゴールディーと、さっきまで泣いていたダズッチャは大声をあげて笑っている。他の客も続々と来て、店は大繁盛だ。明るいランプの光の中で、誰もが機嫌よく騒いでいる。


キイ……ドアが開いた。カウンターの中からガングが威勢よく声をかける。

「へい! らっしゃい!」


 ドアから店内をのぞいているのは、フワフワした金髪の巻き毛とキュルルンとした大きな青い瞳の美少年だ。品の良い仕立ての服を着て良家の子弟と一目でわかる。半ズボンからスラリとした足が伸び、ほっそりとした手の出る袖口から高級なレースがのぞき、胸元で大きなリボンが揺れている。

「ぼっちゃん、お一人ですかい? ここは酒場なんで、保護者がいないと……」

 言いかけたガングを無視して、美しい少年は店に飛び込んできた。


「おねえさまっ!」

 少年はマユに駆け寄り飛び上がって抱きついた! 子どもとはいえ全力疾走でぶつかる衝撃は大きい。マユは持っていたお盆をすっ飛ばしながら床へ倒れ込んだ。子どもは仰向けに倒れたマユに、ひしと抱きついている。

「えええっっっ!?」

 誰より驚いたのはマユだ。

「だだだ、だれっ!? 私、弟はいないんですけど!?」

「おねえさまのバカ! バカ! ずっとさがしてたんだから!」

 美少年は倒れたマユの胸元に顔をうずめ、イヤイヤと首を振る。全員が唖然としていると、戸口から声がした。


「ノエル……! あっ! 姉さん!」

 背の高い少年が、床で倒れている美少年とマユに覆いかぶさった! やんちゃそうな赤色の髪の毛がマユの顔に当たる。仕立ての良い服を着て、こちらも良家の子弟といった風情だ。年は17歳くらいだろうか。


「ちちち、ちがいます! 人ちがい……!」

 二人の美少年に抱きつかれて、マユは顔が真っ赤になっている。起き上がろうとジタバタするが、二人にのしかかられて起き上がれない。

「オスカー、ノエル。未成年だけで酒場へ入らないでください……。レティシア!」

 美しい金髪を揺らして、見目麗しい碧眼の青年が合流した! 力強い腕で床に倒れたマユを抱きしめる。

「良かった無事で! どれだけ心配したか! さあ帰りましょう! 明日には客人が来ます! 間に合って良かった!」

「重い! 重いです! た、たすけてぇ~!」

 マユは真っ赤な顔で周囲に助けを求めるが、突然の出来事に全員フリーズしている。マユの胸元にしがみついていた子どもが声をあげた。







「おっぱいが小さい! おねえさまじゃないよ!」

 バッと離れた麗しい三人は、マユの胸をガン見する。

「おねえさまのおっぱいは、ボクが抱きつくとポヨンってなるの! このおっぱいは、ポヨンってならないの!」

「たしかに薄い……」

「オスカー、ノエル、口を慎みなさい。もし人違いだとしたら、この方に失礼ですよ。しかし確かに、ずいぶんと頼りない胸元ですね。レティシアとは大違いだ」

 マユは抱きつかれてショック状態だったが、あからさまに胸が小さいと指摘されて、怒りが湧いてきたらしい。

「だから人違いだって言ったでしょう……!」

「でも髪もおめめも、やっぱりおねえさまです!」

「そうだな!」

「いかにも!」

 そして麗しい三人は、再びマユを押し倒して抱きついた!

「やめてぇ~! 誰か助けてぇ~!」

 とうとうマユは、泣きだしたのであった。


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