ざまぁ!
マユは、ほっと溜息をついた。
「後はみなさんご存じの通りです。私はダッシュでお店から逃げだして、ダズッチャさんに宝石を渡して隠れました」
「大金に目がくらんだソヴリンは、ダズッチャの持ってる石で大儲けしたくて、いきなり心友になったってワケか……」
一同は、黙ってドングリ水をすする。ガングとドリドリが言い合う。
「コレって、詐欺になんのかな?」
「でもねぇちゃんは、ぜんぜん儲けてないよん?」
「だいたいソヴリンが、ダズッチャにニセモノを売り付けたのが悪いんじゃねぇか?」
「ダズッチャは偉かったよん! 大金を目の前にしても、誘惑に負けなかったよん!」
「ワシだったら、とっくに手ぇ出してるぜ!」
「ダズッチャは石を返しただけだよん」
「ソヴリンは、自分で売ったクズ石の代金をドリドリに返しただけだ。ニセモノでもかまわないって言ったのは、ヤツなんだし」
「でも、どうなんだよん? 詐欺で訴えられるのかよん?」
一同が考え込んでいると、ずっと黙っていたダズッチャが言った。
「……オラは神様に言えないことなんて一つもしてねぇ。ソヴリンが訴えたかったら、訴えればいいっちゃ」
ドリドリはブンブン首を振ってうなずく。
「そうだよん! オイラは本物の親友だ! もし裁判になったら、ダズッチャもねぇちゃんも悪くねぇって証言するよん!」
「それに『訴えたら恥かくのは自分』って言っていたのはソヴリンだ!」
「ガングはイイコト言うよん! そうだよん!」
ルウが立ち上がった。
「ソヴリンに羽メッセージを飛ばして、特注の話はやめにしたって伝えればいい。今なら職人に発注してないだろうから、損害は発生しない」
「ルウは、ホントにエライよん~!」
ドリドリが感心すると、ガングは自慢げに胸を張った。
「そうだろっ!? ワシとカアチャンの良いところが、全部ルウに行ってんだ!」
ルウはおっさんたちを無視して、引き出しから白い羽を取り出して大きく3回振った。
「差出人はナシ。受取人はソヴリン。ブレスレットは不要。作業は中止されたし」
羽はフワリと浮き上がると、ドアの隙間を抜けて飛んでいった。ドリドリは心配そうだ。
「まだ作業は始まってねぇよな? 大丈夫かよん?」
ガングが答える。
「彫金師のゴールディーならさっき、ウチでしこたま酒呑んでフラフラしながら帰っていったぞ。昼寝するって言ってたから、ソヴリンが起こしても起きないだろ」
「ゴールディーは、腕は良いけど酒グセだけはどうしようもナイよん! でもよん……。ソヴリンのヤツ、これから一生3万モニア儲けそこなったって思うんだよん……」
「思い出すたびに悔しくて、はらわたが煮えくり返るんだろうな……」
「それって、ざまぁ見ろ!って思ったら、罰があたるかよん?」
「ワシもざまぁ! と思ったから、ドリドリを責めることはできんなぁ!」
「ざまぁ! だよん……www」
「ドリドリ、気の毒なソヴリンに失礼だぞ! でも、ざまぁ! だよなぁwww」
一同はソヴリンの不幸を想像すると、下を向いて笑うのをガマンした(でも肩は震えてた)。
「そんでダズッチャは、明日どうするよん?」
「……わすれてたっちゃ。どうしたらいいっちゃろう? もう間に合わんっちゃ……」
再び涙目になるダズッチャ。
「うわぁ! ダズッチャ、泣くなよん!」
マユがおそるおそる口を開いた。
「あの……。サプライズでプレゼントをもらうとですね……」
「なんだよん?」ドリドリが訊き返す。
「コレじゃない! っていうコトがありまして……」
「せっかく準備してくれたのにか!?」ガングが目をむく。
「いえ、気持ちは嬉しいんです! でも少し好みと違うというか、自分で選びたかったっていうのが本音でして……」
「そういうもんか?」
「ええ。だから明日は『指輪をプレゼントするから、一緒に宝石を選ぼう』って言ったら、奥様も喜ぶかと。それに今なら指輪のデザインも奥様が好きにできるし……。そっちのほうが、喜ばれると思います」
「女心は、むずかしいなぁ~!」
「メンドクサイよん!」
ガングとドリドリがブツブツ言う横でダズッチャは、ほっとした顔だ。
「そっちのほうがイイっちゃ! オラ、どうしていいかわからんし、カアチャンが決めてくれるほうがイイっちゃ! 次は信用できる宝石屋でカアチャンに選んでもらうっちゃ!」
ドアが開いた。
「よう! 夕方来いって言われたから、来たノシ。店はやってるかい!?」
「ゴールディー! オメェんちに、ソヴリンは来たかよん!?」ドリドリが大声で尋ねる。
「ソヴリン? じゃあアレは夢じゃなかったノシ! ソヴリンがドアをドンドン叩いてたけど、てっきり夢と思って寝てたノシ!」
「ドハハハハ! それでこそゴールディーだよん! オメェを待ってたよん!」
「待ってた? おれっちを?」
「そうだよん! みんなでお前が来るのを待ってたよん!」
「なんで? なんでノシ?」
「いいから座れよん! 今日はオイラがおごるよん!」
「ななな、なんで!? なんでノシ!?」
「みんなで乾杯するよん! ガング! エールを頼むよん!」
「ほいきた!」
状況がわからずオタオタする彫金師のゴールディーと、喜色満面の一同がジョッキを持った。
「みんなで乾杯するよん! ダズッチャ、音頭をたのむよん!」
「……みんなと……ソヴリンに、イイコトありますように! みんな、ありがとっちゃ!」
「ドハハハハ! ダズッチャ、いいぞ! それでこそオイラの親友だよん!」
「かんぱぁ~いっっっ!!!!!」




