マユはやってみた
「そんで? どうしたよん?」ドリドリが先を促す。
「ソヴリンさんは、ドリドリさんとダズッチャさんの作った首飾りを誉めてくださいました。細工も良いし、宝石も素晴らしいと」
ドリドリとガングが眉を吊り上げる。
「アイツの口車は、いつもそこから始まるんだよん!」
「本当にイイなんて一つも思っちゃいねぇ! 自分とこの宝石を売るための、きっかけにすぎねぇんだ! それでマユは、どうしたんだ?」
「私は首飾りの宝石と、お揃いのブレスレットを探していると言いました」
「作ったのは首飾りだけだ。ブレスレットなんか、あるワケねえ!」
ガングのツッコミにマユはうなずく。
「はい。そうです。ソヴリンさんもブレスレットは無いって言いました」
「……話が終わったぞ?」
「終わってないです。私は独り言を言いました。『それなら特別注文で作ったほうがいいのかしら?』って。あくまでも独り言なので、けして仕事の依頼ではありません」
「……イヤな予感しかしない……」
ルウがドン引きする横で、ガングは身を乗り出す。
「特別注文なんて金のかかる話、いかにもソヴリンが飛びつきそうだな。ヤツは飛びついたのか?」
「いいえ。『特別に誂えるとなると同じ色の宝石を見つけるのも大変ですし、お値段もそれなりになります。とても難しいでしょうね』そう言われました」
「それで?」
「私はせいぜい、威張りくさったお金持ちのフリをしました。『難しいですって? お金を払えば事足りるのでしょう? それのどこが難しいのかしら?』。あとは意味がわからないという顔で、ソヴリンさんを見つめました」
ガングとドリドリは、腹を抱えて笑う。
「ガハハ! 金持ちが爆誕してるぞっ!」
「『お金を払えば事足りるのでしょう?』ってか!? オイラも言ってみてぇよん!」
ルウは、あきれている。
「豪華なドレスに派手な宝石、ザ・ルッツに滞在してる大金持ち。疑い深いソヴリンも目が眩む……」
マユは両手を振り回す。
「でもでも! 危なかったんですよ! 『ご予算はお幾らくらいをお考えでしょうか?』って! 私、こっちの世界に来たばかりです! お金は持ってないし、こっちの通貨単位なんて知りませんから!」
「そりゃ、そうだ。さっき来たばっかだもんな」
「でもまぁ、予算は聞かれるよん」
「そんで、マユは何て答えたんだ?」
「『お金に糸目を付けたことは、先祖の代から一度もありませんわ』って……」
ガングとドリドリは抱腹絶倒だ。
「ガハハハハ! マユ、サイコーだぜっ!」
「金に糸目はつけねぇ……! ソヴリンが死ぬほど好きな殺し文句だよん!」
「そんでソヴリンのヤツは何て言ったんだ?」
「素晴らしい偶然で同じ宝石が手元にあるって。その宝石でブレスレットを作るなら最低でも3万モニアはかかるって」
「ソヴリンは宝石なんか持ってねぇだろ⁉」
「ぼったくりだよん! ドリドリにさんざん恩着せて払おうとしたのだって、5千モニアだよん!」
「アイツ、どんだけカネに汚ぇんだ……」
「それでねぇちゃんは、どうしたよん?」
「私は『まあ! 思っていたよりお安くて、とっても嬉しいですわ!』そう言いました。」
「ガハハハハハ!!!!!」
ガングとドリドリは笑い過ぎて、息も絶え絶えだ。
「ヤツにしたら、とんでもねぇ大儲けのチャンスだ!」
「ドリドリに売りつけた石を取り戻せたら、ザ・ルッツに泊ってる大金持ちの欲しがるブレスレットを作れるってワケだよん!」
「2千モニアで大儲けしたつもりが、3万モニアになるってんだ! そりゃあ、血相変えてドリドリを探すだろ!」
「『心の友と書いて、心友』だよん! 3万モニアなら、下僕にだってなるよん!」
「ヒイイ! やめてくれ~! 腹が、腹がイタイ~!!」
「だけど、ソヴリンさんが内金を欲しいって……」
思い出して、げんなりするマユ。
「そりゃあピンチだ! そんな金、マユが持ってるワケねぇ!」
「払えなかったら、ぜんぶオジャンだよん!」
「私も、もうダメだと思ったんです。だから正直に、お金なんて持ってないって言いました」
「正直に言っちゃったのかっっっ!?」ガングが目を剥く。
「それなのに、なんで話が進むんだよん!?」ドリドリは身を乗り出した。
「私がお金を持ってないって言ったら、ソヴリンさんが『わかりますとも! 本物のセレヴリティの方は、現金など持ち歩きません! 失礼を申しまして、誠に申し訳ありませんでした!』って……」
あきれたルウが目をぐるりと回す。
「欲が出たばっかりに、ヘンなフィルターがかかってる。自分の都合の良いように、マユの言うことを解釈したんだ……」




