屋根裏のひまわり
第4回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞投稿作品
下記指定キーワードを全部使用して書いてみた。
「天才/缶コーヒー/えんぴつ/ランドセル/量子力学/星座/夏祭り/チェックメイト/ひまわり/おふだ/体育祭/ポーカーフェイス/屋根裏」
僕の家の屋根裏には何かが棲んでいる。正体不明なそれは普段存在不明なのだが、何故か夏祭りの季節になると何か擦るような置くような声というか音というか、そんな感じの何かを微かに発しているのだが、特に害がある訳でも無いので放っておいている。
最初は何らかの小動物かと思っていたがどうも違う。ひょっとしてそれは妖怪と呼ばれる様な何かではないかと真剣に考え、家近くの神社からお札を頂戴し部屋中に貼った事もあったが効果はなかった。正体不明なそれ、僕はその謎を解き明かそうと決めた。
僕はランドセルがよく似合う小学生。それも天才小学生(自称)である僕は原子や分子等の動きを論じる量子力学、それと相手が妖怪である事も考慮し星座を利用する陰陽師の知識をも動員しその正体を解き明かすべく目にも止まらぬ速さでえんぴつを走らせ、その正体を暴くが為の計算を始めた。
カタンッ
机の傍らに置いてあった缶コーヒーに僕の肘が当たり、その中身が全てノートの上へとぶちまけられた。
「くっ――」
僕は吐きそうになった汚い言葉を飲み込み平静を装った。そして怒りや驚きといった行動言動は無意味であり時間の無駄なのだと自分へ言い聞かせると共に、特に誰が見ている訳でもないのに一人ポーカーフェイスを決め込んだ。そしてそんなこんなありながらも全ての情報を分析し計算した結果、1つの結果を導き出す事に成功した。
『屋根裏では体育祭が開かれている』
僕は自らが導き出したその答えの意味を理解出来ずにいた。だがそこで閃いた。
「そうだ! 屋根裏を直接覗けば良いんだ!」
そんな画期的な方法を思いついた僕はすぐさま押し入れの天井板を外し屋根裏を覗いた。すると…
「チェックメイト」
ほぼ暗闇の天井裏の中、か細い声でそんな言葉が聞こえた。その声の方へと目をやれば、そこにはネズミらしき2匹の何かが見えた。だがそれは顔がひまわりというネズミとは異なる何か。その2匹の何かは正座で向かい合いチェスをしていた。更にその向こう側では5、6匹程のひまわりネズミ達が2本足でリレー競争していた。
僕は部屋に戻ると余っていたお札を手に再び屋根裏を覗き込み、手にしていたそれを屋根裏全体に行き渡るようにしてばら撒いた。すると走り回っていたひまわりネズミ達は天を仰ぎつつ阿鼻叫喚しながら雲散霧消し始めた。
「折角チェックメイトだったのにーっ!」
それを最期の言葉に、ひまわりネズミは霧となって消えていった。
2022年12月31日 初版