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第1話 始まりのLHR(ロングホームルーム)

「よし、全員集まってやがるな」


 入学初日の午前。入学式を終えた一年生が集まる教室に、野太く渋い声色が響き渡る。

 生徒たちの視線を一身に集める教壇の上に、一人の男が立っていた。年齢は三十代半ばといったところだろうか。短く切り揃えられた茶髪に、白衣の上から見て取れる筋肉質な体躯。見る者を威圧する鋭い眼光で生徒を見渡した後、男は言葉を続ける。


「まずはようこそ、ウィッチクラフト・アカデミーへ。歓迎するぜ。たった今からお前達の担任を務める事となった、織田限(オダギリ)勝法(カツノリ)だ。まぁ、オタギリで覚えておけば良い」


 担任となる教師――オダギリが名乗ると、その背後にある電子画面――黒板の役割を果たすのだろう――に彼の名前が大きく表示された。それだけで、今まで経験してきた学校生活とは一線を画すものである事が実感として伝わってくる。


「ここに入学してきた以上、アカデミーの事は承知の上だろうが……改めて説明させてもらう。ウィッチクラフト・アカデミーとは、近年に発見された新しい概念である魔法を専門的に学ぶ場所だ。基礎知識から応用技術、それらが生み出す可能性や危険性まで。お前達には魔法に関するあらゆる事柄を学んでもらう事になる」


 オダギリ先生の話は続く。この学園で受ける授業の内容や、敷地内に設けられた施設について。その他、諸々も。

 しかし、今の僕にはそれら全てが右から左へと流れてしまっていた。理由は至極単純。


(分からない……先生は何を話しているんだろう……)


 何もかもが未知の領域に身を置いた事で、僕の思考回路は完全に停止していた。完全なパニック状態だ。オダギリ先生が何かを言っている事は分かるのだが、その内容を理解することが出来ない。ただの一文字も、だ。

 そもそも、先生が話している言語は日本語なのか? それすらマトモに判別出来ない程に、僕の脳は混乱を極めていた。


「――――とまぁ、俺から言える事はこんなモンだ。後は実際に慣れていけ。結局のところ、大事なのは経験だ。じゃあ、次は自己紹介だ。呼ばれた奴はその場で起立して名を名乗れ」


 現実のスピードに僕の脳が追いついていない中、生徒たちの自己紹介が始まった。オダギリ先生が姓を読み上げ、呼ばれた生徒が席を立つ。そうした形式で一人ひとり、自己紹介が行われていく。


(ハッ!? 僕は一体なにを……)


 ようやく脳が現実に追いついた時、不意に視界の端に映った少女の姿に意識を奪われた。オダギリ先生の指名を受けた銀髪の少女は、一欠片の動揺も見せないで席を立つ。未だに取り巻く状況を受け入れきれていない僕とは正に対照的の存在。そう断言できる程に落ち着き払った様子で、少女は口を開く。


「私は、御手洗(ミテライ)志紀(シキ)


 感情という物を一切感じられない、淡々とした口調。機械音声のような無機質さを思わせるソレは、さながら人を寄せ付けまいとする拒絶の意思を感じる。


「…………」


 事実、少女――御手洗さんは名前の他には何も語らない。それ以外の情報など不要と言わんばかりに。無表情のまま腰を落とし、自己紹介を終わらせた。


「……チッ、初っ端から面倒くせぇ奴が来たもんだ」


 少女の態度に呆れたオダギリ先生が小声で言う。しかし、すぐに気を取り直して次の生徒の名を読み上げていく。

 やはり、他の生徒の名前は頭に入ってこなかった。パニック状態が続いている訳では無い。ただ、どういう訳か、僕の意識が御手洗さんに吸い寄せられていたのだ。


(御手洗、志紀……さん)


 自己紹介する生徒には目もくれず、自分の席で静かに佇む志紀さん。近寄り難い雰囲気を醸し出す彼女だが、それでも僕は視線を外す事が出来なかった。まるで磁石のように。

 自分でも気づかない内に、僕の心は御手洗さんの姿を追い求めていた。

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