表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/39

第12話 不本意な幕引き

『規定時間経過の為、模擬決闘を終了とする。双方、戦闘態勢を解除せよ』


 審判のアナウンスが響くと同時に、アリーナの結界が解除された。暫しの間、お互いを睨み続けていた二人だったが、やがて指示に従うようにして得物を収める。


「タイムアップ前にはケリをつける……そんなつもりで仕掛けたんだけどな」


 やれやれ、といった素振りで肩をすくめるエタン。癪に障る態度は変わらないものの、彼の言葉にはどこか称賛の意が込められているような気がした。


「完全勝利とまで行かなかったのは残念だが、俺とタメを張る奴に出会えたのは願ってもない幸運だ。お前とは、また戦いたいもんだぜ」


 エタンは志紀へ悠然と近づき、握手を求めるように右手を差し出した。

 一方の志紀はというと、敵対の意思を残した眼差しでエタンを見据えたまま。その手を握り返そうとはしなかった。


「まさか、全生徒が見守っている中で握手を拒もうとは考えてないよな?」


 彼女の視線に怯む事なく、エタンはフッと笑ってみせる。

 数秒における思考の末、志紀はようやく彼の手に自分のそれを重ねたのだった。


「お、終わった……結果は時間切れだったね」


 観客席にて、二人の試合を観戦していたトモキが呟く。張り詰めた空気の中、緊張で息をする事も忘れていた彼は、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


「お、おう。そうだな……予想外した」


 同じく隣にいたアキトが、ぎこちない返事をする。極度の緊張感から解放された反動とは別に、模擬決闘の結果がタイムアップだった事が意外のようだ。


「凄いんだね、特待生って。御手洗さんも、エタン・グランベルも。まだ入学したばかりなのに、あんなに激しい闘いが出来るなんて」

「だろ? 満点突破は伊達じゃねぇのさ」


 得意げに語るアキトは、まるで自分の功績のように胸を張っていた。なんで彼が自慢気になってるんだろう、と思ったのは一瞬の事。すぐに彼と同じ表情を浮かべ、トモキは嬉しそうに笑った。



 アリーナの更衣室。選手の為に用意されたそこでは、シャワーを終え、アカデミーの制服に着替える志紀の姿があった。


「…………」


 顔を俯かせ、つい先程の試合を振り返る。

 エタン・グランベルとの模擬決闘。同じ特待生として、自らの手で確実に倒しておきたかった相手だ。

 しかし、それは叶わなかった。痛手は与える事は出来ても倒すまでには至れず、結果はタイムアップ。負けはしなかったが勝ちもしない、非常に不本意な結果となってしまった。


(何をやっているんだ、私は……!)


 唇を噛む力が強まる。湧き上がる悔しさで顔を歪ませながら、志紀は拳を強く握った。

 悔しい、ただひたすらに。エタンの強さは事前に想定していた筈だ。自分と同じ特待生なのだ、その力を見誤る訳が無い。

 だというのに、この体たらくは一体なんだ? 誰もいない空間の中で一人、志紀は己に問い続ける。


(強く……私は強くならなくてはならない! 他の誰よりも、ずっと!)


 自分には何もない。縋れる肉親も、支えてくれる友人も。帰れる場所ですら志紀には無い。

 だからこそ、彼女は強くなりたいと願う。誰もが認める絶対的強者、他を寄せ付けない唯一無二の存在に。そこまで至って初めて、自分は志紀という人間を証明できるのだから。


(次は負けない……負けてたまるか!)


 心の中で叫び、志紀は顔を上げる。

 引き分けなどという中途半端な結末は認められない。次は勝つ。エタンを完膚なきまでに叩き潰し、己の力を証明するのだ。

 決意を新たに、志紀は用の無くなった更衣室を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ