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第0話 新天地で夢を求めて

 僕にとって、『剣と魔法の世界』は空想上の存在だった。今より遥か昔――その年月は僕の想像など及びもつかないだろう――に生を受けた人間達が、当時は未解明だった様々な謎を考察し、解釈し、発展し。そして物語として後世へと語り継いでいった。その副産物として誕生した者が、剣と魔法の世界――僕はそう考えていた。

 時の流れという物は凄いものだと、しみじみ感じる。目を疑うような不可思議な事象が、科学という力によって解き明かされていくのだから。無論、稀に説明がつかない現象が登場する事はあるけれど――いずれ地球上に存在する謎は全て解ける日が来るのではないかと思う。

 そう。その時が来れば魔法は完全に御伽噺へと成り果ててしまうのだ。科学に対して大きな期待を抱く反面、そんな寂しさを胸に抱きつつ僕は日常を過ごしていた。

 この地球上に、魔法の存在が確認されるまでは。



「フッ!」


 真っ白なボディスーツを纏った少女が、日本刀を両手に迫り来る。二十メートル離れたグラウンドから正面まで、僅か三秒足らず。少女の身体能力は常人を軽く凌駕していた。


「っ!」


 水平に振り抜かれた刀身をギリギリで避ける。少女が突出しているのは脚力だけでは無い。本来、十代の少女には扱いづらいであろう長物を軽々と扱っている事から分かるように、腕力も桁外れだ。


「ハアッ!」


 刃を外しても、重心は乱れず。顔前で刀を構え直した少女が流れる動作で第二撃を放つ。今度は突きだ。剣の鋒が一直線に飛んでくる。


「うっ!?」


 恐怖しながら首を横に向ける。刹那、突きから生じた風圧が頬を撫でた。避けなければ当たっていたという事実を強く認識すると共に、心臓が大きく跳ね上がる。


「ハッ! ヤアァッ!!」


 しかし、少女は攻撃の手を緩めない。相手の事を思うのならば緩むはずが無い。突き出した剣を手元に引き戻しながら継ぎ目なく、手数の多さを重視した連撃を仕掛けてくる。

 避ける。避ける。避ける。まともな攻撃手段を持っていない以上、出来る事と言えば繰り出される太刀筋を回避し続けるのみ。とにかく少女の攻撃を捌く事に専念する。


「足元がガラ空き!」


 目の前の視界がガクリと傾いた。少女の言葉通り、上体への攻撃にばかり気を取られ、足下を疎かにしていたようだ。足払いを受けたことで視界は大きく傾き、地面に向かって吸い込まれて行く。


「マズっ……!?」


 景色の上下が反転する瀬戸際で見たもの。それは、身体を百八十度回転させて剣を振り抜かんとする少女の姿だった。



「はぁ、はぁ……はぁ」


 赤色に染まった夕焼け空が視界一杯に広がる。地面に大の字になって寝転びながら、僕は乱れた呼吸を整えていく。

 全身からは汗が大量に噴き出しており、疲労感も半端じゃない。ボディスーツの恩恵で痛みは大幅に軽減されているが、それでも少女から受けた攻撃による衝撃は肉体に強く響いていた。


「……いつまで休んでいるつもり?」


 景色を遮るようにして、視界の上から人影が現れる。白いボディスーツ。肩まで伸びた綺麗な銀髪。表情に乏しくも女の子らしい可愛さを持った顔立ち。他ならぬ、日本刀使いの少女である。


「ああ……ごめん、そうだよね。試合まで時間が無いんだから、もっと頑張らないと……」


 なんとか上体を起こそうとするも、身体は言うことを聞かない。僕の身体だというのに自分の思う通りに動かせないというのは何とも歯痒いものだ。


「…………」


 僕を見下ろす少女は無言のまま。何も言わずにジッと見つめているだけ。少しだけ呆れているように感じるのは気のせいでは無い……が、困ぱいしている僕を見兼ねてか何も言わないでくれていた。とはいえ――


(このままじゃ、ダメに決まってるよね……)


 今の自分に休んでいる暇なんて無い。一週間後に控えた決闘試合。一度も戦った経験が無い自分がそこで勝つには、少しでも多く練習する必要があるのだ。それがこの少女が受けた屈辱を取り払う唯一の方法なのだから。


(例え本人が許せたとしても、僕は許せない。絶対に勝ってやる……!)


 僕の名前は、玲羽朋稀(レイバ・トモキ)。そしてここは、新たな常識である魔法を専門とする学校――『ウィッチクラフト・アカデミー』。

 今までの常識が一変するであろう学園で、僕は新たな一歩を踏み出す事になったのだ。

週に三回を目安に更新していきたいと思います。

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