1−1 砂漠の民
小説を書いてみようと思い、初めて執筆しています。色々ご意見頂けるとありがたいです。ちょっとずつ更新していきます。
1-1要人の部屋
「もう、我々が日本島に帰還する事は無いんだ。」
静まり返った部屋。中央には大きな机と黒い本皮の椅子がある。
椅子の向こう、三メートル四方の巨大な窓の前に、
黒いスーツを着た要人が外を眺めながらうつむき加減で立っている。
見下ろす窓の外には街がある。
数百メートル置きに背の高い真っ黒な煙突が顔を出す。
煙突から出た煙は雲海のように上空を覆う。
雲海の隙間から見える街並みはとても無機質で冷たく、街全体が言葉を持っていないようにも見える。
その先には、果てしなく続く砂漠が広がっている。
歯を食いしばりながら、要人はこう続けた。
「頼むから理解してくれ。国家運営は綺麗事じゃない。どうにもならん事を市民に押し付けることは出来ん。」
砂漠を見つめながら、時折うつむき加減で話し続けるその横には、大きなオーストラリア国旗が飾られている。
「この部屋には、日の丸は無いんですね。」
静かで、冷たい言葉が響く。真っ黒な軍服を着た男が一人、
要人の背中を突き抜けるような鋭い視線を微動だにせず発した。
男の胸には略章が1つも無く、
「Police Reserve“警察予備隊”」
の表記が刻まれている。
「日の丸はどこかに置いてきたんですか?」
「・・・その金庫にしまっているよ。」
「君たちのような分子の存在があるから、豪州政府から掲揚を認められていない。」
要人の言葉に、軍服の男は動揺もせず背中を見つめ続ける。
「・・・今年は遷都して五十年だ。」
「私は10歳だった。」
「君には想像も出来ないだろう・・」
「目の前で親が死に、友の足が飛び、軍人が子どものように泣き叫ぶ・・・」
軍服の男はその積み重ねて来た信念と同じくやはり、微動だにしない。
「何が望みなんだ。政権の転覆か?軍事政権を作るか?パースに攻め込むか?」
「私の命はどうなっても構わん、市民の犠牲だけは出さないでくれ、頼む!」
「クーデターは目的ではありません。」
これまで軍服の男を逆撫でしないよう、慎重に話をしてきた要人が声を荒げた。
「これはクーデターだ!この部屋に来るのに何人殺してきた!」
「1人も殺してませんよ。ただ早く助けたほうが良い。1人は内臓が破裂している。」
部屋の外、廊下には3人のスーツを着たセキュリティが倒れている。
3人とも激しい戦闘の末、というよりも強烈な打撃を即応する前に受け、
一瞬で失神をしていた。その内の1人は口から大量の血を吐いている。
「お前の目的は一体なんだ・・・斎藤・・」
「船が欲しいんです。日本に行く為の。」
軍服の男の言葉を怒りで押しつぶすように要人が発した。
「馬鹿な!何度言えば分かる!奴らのカーテンは米軍の空母打撃群でも・・・」
「穴が、空いたんです。カーテンに。」
男は最後の言葉を発しながら、要人の顔を確認した。
目を見開き、瞬きも忘れたままこちらを凝視している。
男は僅かに笑みを浮かた。