雪に青サギ 第九話
リベロのルーティンは、自分始動のサーブとは違って、相手に合わせる必要がある。あくまで、これは、相手の癖やタイミングがわかって、さらに、集中力が持つ点数の時のみ。1ゲームくらいなら持つし、相手は、姉さんだから、今回は最初からしても問題はない。さやかだけが、不安だが、一回入ってしまえば、簡易的なもので入ることもできる。
姉さんが、また、同じようにルーティンを始めた。それと同時に僕のルーティンを始める。まずは、2回高く脱力して飛ぶ。その後に、深呼吸を2回。体育館の床を右手で触って準備完了。あとは、白帯で相手が隠れないように、腰を落とす。これをすると、時間が止まったみたいに、ゆっくり流れる。余計な情報、雑音が一切聞こえない。ふわふわしてる。
姉さんは、さっきと同じように、僕を狙ってきた。姉さんがボールをミートする瞬間に、僕の体は浮き、勝手にボールに向かって進む。ドライブがかかっているので、急に落ちるが、それも問題ない。勢いを完全に殺すために、僕はレシーブの瞬間、膝を抜いた。
・・・。
ほとんど、音はしなかった。完璧に、セッターにボールが帰る。
「ナイスレシーブ!!俺にちょうだい!!」
拓人がボールを呼ぶ。ブロックはさやか一枚。クロス側を占めているが、1対1なら、拓人が負けるはずがない。拓人は右手でしっかりボールをミートしてストレート側に打ち抜いた。ボールは相手コートのサイドラインの上に落ちる。ここでようやく、雑な音が戻ってきた。
「ナイスキー。」
拓人に、声を掛ける。
「まあ、あそこまで完璧に上げられたら、決めるしかないでしょ?さすが。」
相手コートを見ると、姉さんはむくれていて、さやかは、僕を凝視していた。
「どうよ!!うちの守護神は!!」
自分のことではないのに、胸を張れるだけ張って、自慢している。
「まだ、始まったばかりだから問題ないし。」
「ほら、相手煽ってないで、拓人がサーブだよ。」
「おう、そうだったな。」
自信満々で拓人はサーブに向かった。
拓人が打ったサーブはものの見事に、ネットにかかった。
「力入れすぎ。」
「すまん。」
さやかのサーブのターン。僕は簡易的なルーティンをした。一回のジャンプと、深呼吸だけ。姉さんとあまり身長が変わらないさやかだから、白帯との調整は要らなかった。さやかは姉さんと違って、ちゃんと僕に拾われないように、角を狙ってるみたいだった。まぁ、でも、あまり関係ないけど。
さやかがサーブを打つ。僕はその前に、動き出していた。右のサイドラインギリギリ、威力も申し分ないけど、正直、打ってくるコースが分かりきっていたから、簡単に届いた。
・・・。
また音はしなかった。
「はいはい!!もう一本ちょうだい!!」
セッターはまた拓人に上げた。今度は、姉さんがブロックに入ったが、今回の拓人は左で打つみたいだ。拓人は両利きで左右どちらでも打つことができる。戦術的に変えているわけではないが、気分で変えるため、どっちで打つのかトスが上がるまでわからない。拓人が振り抜いた左手はまた相手コートに落ちた。
「はいはい。ナイスキー。」
盛り上がるこっちに対して、あっちのチームは、驚き1人、むくれてるの1人がとても印象的だった。