雪に青サギ 第七話
僕らが出てくる時にはすでに、さやかはコーチと姉さんの輪の中に入っていた。
「集合!!」
コーチが声をかける。
「今日から、転校してきたさやかさんが女子バレー部に入る。ということで、実力を見たいから、今日の練習は男女混合で4対4のゲームするから。ちょうど、相川姉も来てるからね。チーム分けは自由でいい。ネットは女子の高さ。じゃあ、準備出来次第各自始めてくれ。審判は休んでる人が担当すること。」
練習メニューを聞いた途端、拓人は僕から離れようとした。僕は拓人の腕を強く握る。
「逃がさないから。」
「やっぱり?」
僕らの視線の先には、姉さんの手を握るさやかの姿があった。
案の定、姉さんとさやかがいるチームと当たる。
「さやかちゃんから聞いたんだけど、勝負するんだって?面白そうじゃん。私も本気でやろっと。大地もよろしくね。」
ウインクして姉ちゃんは僕から離れていく。僕がため息をついていると、一応逃げなかった拓人が話しかけてきた。
「姉さんなんだって?」
「本気でやるってさ。」
「じゃあ、レシーブは全部任せるから。」
「こればかりは仕方ないかな。」
4対4は人数がいつもより少なくなっているので、役割分担ができてないと回すことができない。攻撃ができないリベロのポジションの僕はほぼ強制的に姉の本気を受けなきゃいけない。
「気合い入れないとなぁ。」
少しめんどくさいが、手を抜くと家で怖いから、本気で準備をすることにした。
準備中、ふと周りをみると、ちょうど、さやかがアップしているのが見えた。すでに部員と仲良さげに話していて、なんか安心した。
「アップ中によそ見ですか?ずいぶん余裕ですな。」
「拓人にだけは言われたくない。拓人はもう終わったの?」
「完璧。今からでも始められる。」
一応、この部のエースの拓人。もう少し、念入りにしてほしい。
「もう少し時間があるからもっと暖めておけば?」
「これ以上やると疲れるし、お前と話してた方がいい。何?さやかちゃんばかり見て、好きなの?」
「なんでそうなるのさ。」
「随分気にしてるみたいだからさ。」
「気にはするだろ?今日初めてきたんだから。」
「そうか?でも、大地みたいに凝視はしないと思うぞ。これから、姉さんとやるって言うのにさ。」
「そう言うもんなのかな。わからん。」
「まぁ、始まったら私情はNG。手加減するなよ。勝負なんだから。」
「姉さんにも言われたよ。手を抜くつもりもないし、抜いたら家で怖いから。」
「そうか。安心した。」
そう言い残して拓人は、軽く体を動かしにいった。