雪に青サギ 第三話
学校に着くと、僕にとって1番屈辱的な行動をしなければいけない。僕にとって1番屈辱的な行動。下駄箱に手が届かない。僕の苗字は相川。出席番号順に上から並べられて、生徒数の多いうちの高校では下駄箱も大きい。出席番号1番の僕の下駄箱は1番上。背伸びしてギリギリ手がかかるくらい。この姿が1番惨めに見える。台をおいて欲しいのだが、色々なところに散乱していて、探しにいくのも億劫になる。
「おはよう。大地。とってやるよ。」
基本的に、同じクラスの男子にとってもらってる。今日みたいに。たまに僕より背の高い女子に撮ってもらうことがあるのだが、その瞬間は地獄だ。
「はいよ。可愛いな。」
毎度の如く、頭をポンポンされる。惨めだ。そんな気持ちに耐えながら、「ありがとう」と感謝する。
クラスの中に入ると、やたら盛り上がっていた。身長の観点から、1番前の自分の席に荷物を置く。すると、同じバレー部の拓人が話しかけてきた。
「今日、転校生が来るみたいだぞ。」
あぁ、それでこの盛り上がりなのね。
「可愛い子がいいなぁ〜。お前はどう思う?」
「別に誰でもいいかな。男で背が高かったら、バレー部にでも入れようかな。」
過度に期待しても、その子が困るだけ。可愛いかろうと綺麗だろうと、同じ部活の仲間が増える方が個人的に嬉しい。
「残念。女子らしいぞ。」
「なら、どうでもいいや。」
ガラッ
油を打った方がいい、教室の扉があいた。
「ほら、みんな座れ。ざわざわするのはわかるが、落ち着かないと紹介できないだろ。」
クラスのみんなが何で盛り上がっているのかわかっているみたいだ。まぁ、担任ならそのくらい。
「じゃあ、みんなが待ってた転校生を紹介します。入ってきて。」
扉の窓からは顔の整った女性が見える。教室に入るなり僕は思った。デカって。
「伊藤さやかです。今日からよろしくお願いします。」
彼女は、ショートヘアーの頭を自分の腰くらいまで下げて挨拶した。その時、野太い男の声で歓喜の唄が聞こえた。
「はい。うるさい、うるさい。じゃあ、1番後ろの席に座って。みんな今日から仲良くするんだぞ。相川、出席番号的にお前の後ろになるから学校案内してやれ。」
「なんで、俺?」
「バレー部らしいからな。お前がいいと思ってな。よろしく。」
背中に感じる男子の視線とブーイング。その視線に気づきながら、担任は笑いながら教室から出て行った。嫌がるのも、彼女に悪いから受け入れるしかない。でも、なんでよりによって背が高い女子なんだよ。ほんの少しだけ僕は肩を下ろした。