雪に青サギ 第二十九話
さやかたちは、僕たちとは違い、インターハイの本戦の切符をしっかり掴んでいた。その練習に付き合うために、僕と拓人、それに大学生になった姉さんも僕らが引退する以前と同じように練習に参加していた。
「いつもありがとうね。私たちのために。」
練習後の体育館倉庫でさやかが話しかけてきた。
「特にやることもないからいいさ。さやかの練習が終わるまで、ただ待っているのも勿体無いだろ?せっかく力になれるんだから、どんな小さな力にでもなりたいからさ。拓人もその気だから、きてくれてると思うよ。」
身長が伸びたことで、さやかよりも僕は大きくなっていた。
「こんな短期間で、人間ってこんなに伸びるんだね。」
僕の頭に手を置いて、自分の身長と比べるようにさやかの手が動く。
「これで、少しはさやかに見合う男になれたかな?」
「まだそんなこと言ってるの?いつまでも、過去のこと引きずってる男は、私、ごめんだよ。」
「でもさ、小さい頃はこんなことできなかったじゃん?」
僕は、さやかの肩と膝裏を持って、お姫様抱っこをした。
「ちょっ///」
「どう?頼れる男になったかな?」
さやかはそっと、僕の首に腕を回した。
「そんなこといいから、おろして。恥ずかしい。それに・・・」
「それに?」
「練習後で、汗臭いし。重いかもしれないし。」
「さやかはタッパの割には軽いよ。姉さんの方が重いから。それに、離して欲しかったら、手退けたら?」
「いいから、足だけ下ろして。」
僕は、さやかの言う通りにさやかの足だけを下ろした。すると、さやかは少しだけ背伸びをしてさらに僕に密着するように、首に回した腕に力を入れる。
「頑張るね。大地の分も。」
「ありがと。」
僕は、そっとさやかの頭に手を置いた。
この上なく、上質な2人の空間の中に、ホラー映画のゾンビの登場シーンのように、指先程度の殺気を感じた。
「イチャイチャのところ悪いけど、誰が重いですって?」
「そうだぞ。羨まけしからん。姉さんのどこが重いんだ。筋肉質だから、細いさやかと比べると少し重いだけだ。」
「それ、擁護になってなくない?」
「拓人くん?少しいいかしら?」
拓人は僕らとは違う形で、首に腕を回されて連行されていった。その時の、拓人の顔が少し嬉しそうで気持ち悪かった。もしかしたら、2人っきりにするために・・・そんなわけないか。
「賑やかだね。」
「これは慣れるしかないよ。これからもずっと続いていく気がするし。それに・・・」
僕が言葉を言いかけると、首がさやかの方に引き寄せられた。さやかの顔が僕から離れるときに、少しだけリップ音がする。
「応援よろしくね。これからも。」
「ああ。もちろん。これからも。」




