雪に青サギ 第二十七話
退院しても、成長痛?は取れなかった。痛み止めを処方されたが、あまり効果を感じない。関節を冷やすといいと思い、寝るときは保冷剤を当ててから寝るようにはしていたが、これも効果を感じない。しばらくは、バレーができないし、ひどいときは学校に行くことすらできなかった。病院に行くも、成長痛だと言われて、痛み止めを処方してもらえるだけ。ただ耐えるしかなかった。
退院から1ヶ月。僕の体は大きく変化していた。いつの間にか、姉さんと対して身長が変わらなくなっていた。
「伸びたね。」
「こんなに急に伸びるものなのかなぁ。」
自分の体の変化に驚きが隠せないし、何より急激に伸びたことによって、怖くなった。ネットで調べてみると、少ない証言だったがあるにはあるらしい。
「痛みは?」
「今日はまだ平気。」
1ヶ月間も、定期的に痛みにさらされていて、立つことが難しいときは寝るしかなかったため、寝る子は育つ理論でその影響もあるのかなと思いながらも、急激に変わった自分の縮尺に体が慣れない。休みがちになっていた学校にたまに行くと、少しずつ自分の下駄箱に手が届くようになってきていた。この時、クラスでは自分の身長を記録していくのがブームになっていた。朝顔の成長日記じゃないんだから。
2ヶ月後には、痛みはほぼ無くなっていたが、気づけば完全に姉さんを追い越していた。15センチ以上身長が伸びていて家族と並んでいても、特別違和感がない感じがした。さやかとも、同じ目線で話すことができるし、より近くで感じることが嬉しかった。
痛みが引いたことによって、部活に出ることの許可が降りたので、部活に顔を出すことにした。僕が、痛みで出れていない間に、春高が行われていて、僕の代わりに速太が出たが、結果は初戦負け。元々、インターハイで3年生は引退していたので、涙こそなかったが、悔しさが残るものになった。僕も出れないことの悔しさもあった。
「久しぶりに出てきたな。サボり。」
「サボってたわけじゃないの知ってるだろ。」
「なまってないか見てやるよ。」
拓人とネットを挟んで対峙する。
「容赦はしないからな。」
「もちろん。」
拓人は、容赦なく正面にサーブを打ってきた。外から見ることが多かったが、何もやってこなかったわけではない。動ける日は自主練を欠かさなかったし、動けなかったとしても、常にボールを触るようにしていた。その成果もあって、反応はできたが、体の力の入れ方がわからずに、拓人のサーブは構えている腕の上の方に当たり、正面のサーブのはずなのに綺麗に返すことができなかった。
「あれ?」
「ほら、もう一本。」
拓人は間髪入れずに今度は、右端に打ってくる。飛び込んで、反応はできた。でも、自分のスイートスポットに当たらずに、明後日の方向に飛ばされる。
「大地お前、自分の体に慣れてないだろ?急に背が伸びたんだ。それも当然か。」
そんな感じは日常生活にも感じていたが、バレーになって初めてことの重大さがわかった気がする。
「まぁ、基礎練習からだな。しばらくは、リベロを速太で、大地のポジションは、もう一度考え直さなきゃいけないな。」
そこから、僕の急な成長は止まったが、いまだに、少しずつ、1ヶ月に2から3センチずつ身長は伸びていっている。チーム内でも2から3番目にデカくなった僕を、リベロで使うのはあまりにも勿体無いという判断で、オポジット、セッター対角のポジションを練習することになった。小さい頃に散々憧れて諦めていた、点の取れるポジション、期待とは裏腹に、どうもうまくタイミングが合わない。
「下手くそ。」
部活終わりに、さやかと拓人、姉さんに付き合ってもらって散々練習したのだが、タイミングが全く合わない。
「大地は今まで、相手に合わせるのがうまかったし、それしかやってこなかった。でも、今度は仕掛ける側。受ける側と仕掛ける側だと全く世界が違うからな。」
常に受け身で、構えていた時の癖で、どうしてもトスを見てそれに合わせるように腕を振ってしまう。
「お前は、人に任せるってことができてない。気を遣ったり、相手に合わせることも必要なことだけど、自分がわがまま言っていいポジションだって理解しないと。お前はプレーの全責任を背負って主役になる覚悟がない。」
拓人の背負ってきたものがわかった気がする。バレーは1人では絶対にできないスポーツ。サービスエースを25回決める以外は。1人で完結できないからこそ、一つ一つの点に、いろんな人の思いがつながってそれをスパイカーに託す。僕は今まで、思いを託すことしかしてこなかった。
「なんか、わかった気がする。」
「じゃあ、最後にもう一本。」
拓人がふわっと、ネットから少し離してトスを上げた。その次の瞬間には、手に血が集まって温かくなる感覚と、体育館に力強くボールが叩きつけられる音が響いた。




