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雪に青サギ 第二十四話

その日の記憶はとにかくモヤっとだった。魂が抜けたとはよく言ったもので、口から温かい何かが抜けていった感じがした。部活でも、どこか集中力がなくて、体がうまく動かない。目は動いてる。スパイクの回転まで見えるくらいだ。でも、体が動いてくれない。集中しているのではなく、僕の時間が実際にゆっくり流れているだけだった。


部活帰り、一緒に帰るのが少し小っ恥ずかしかったので、帰りは別々にした。それに、僕の周りの関係者は全員バレー部だから、帰りたくても、帰れない。見られることに余り慣れてないし、別に見せつけたいとも思わない。できれば、温かい目で見守ってほしいが、それが無理なことは、もう知っているだろう。


さて、雪の降り続ける中、家の玄関の前に立つ。予想している限り、僕とさやかのことは家中の人間に筒抜けだ。なぜ、ここまで僕の周りには空気の読めない人が多いのだろうか。距離が近いのもあるが、察する、気を遣うと言うことが、誰しも辞書から抜けている。欠陥品なんだから、新しくアップデートをしないといけないのに。


僕が、家の前で、モゴモゴしていると、何かを感じ取ったのか、今日に限って部活に来ていなかった姉さんが玄関を開ける。


「お帰りなさい。おめでと。」


姉さんの反応は意外と静かなものだった。でも、口元を見ると笑いを堪えようとしていて、必死なのが見えた。僕の予想、いや、ここまでくると予言は的中していると確信を得た。姉さんは、まだいい。問題なのは、もう一つ上の・・・


「なぜだぁ!!」


家の中から、兄さんの声が聞こえる。今入るとおそらく、歓迎ではなく、嫉妬や恨みが僕を迎えるだろう。


「兄さん、拓人くんからメッセージできた時から、ずっとあんなんなの。それが堪らなく面白くて・・・」


姉さんは、白い息を吐きながら笑う。


「早く、寒いから入って。」


姉さんに導かれながら、僕は家に入る。暖房が効いた家に入ると、気温差で、耳と顔に熱が籠る感じがした。玄関の姿見には、顔が赤い僕の顔が映る。今日の昼のことを思い出して、僕は無意識に唇をさすった。リップクリームなんて塗ったことのない、冬特有のカッサカサな唇。その姿を見ていた姉さんが、僕に話しかけてきた。


「今度、リップクリーム買うの付き合おうか?」


「姉さんが塗ってるところ見たことないけど。」


「そういう姿は誰にも見せないのがいいの。いかに、それが当たり前ですよって、見せるのも大事なんだからね。」


確かに、姉さんの唇は綺麗だった。


「そんなに見ないの。キスするよ?」


「嫌だよ。」


「わかってるよ。今度からは、くっつくのも控えようかな。」


「それはいいと思う。さやかも知ってるから。」


「そう?なら、今まで通りね。お帰りなさい。少しだけ、大人になった弟。」


言い方が少し嫌だったが、姉さんなりのおめでとうなのかな。


「ただいま。」


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