雪に青サギ 第二十三話
チャイムとは違う音が廊下から聞こえる。まぁ、誰がいるのかはある程度想像できる。
「押さないでくださいよ。聞こえますって。」
小声で話しているみたいだが、ダダ漏れだ。それにさやかも気づいているみたいで、お互いに悪い顔をする。
「こんなに人いたら、盗み見にならんでしょ。」
まだ、僕らに気付いてないみたいなので、僕だけが壁を伝い、死角に入る。声が聞こえる扉を勢いよく開けると、数人かと思った盗聴野郎は、想像以上に多く、15人くらいが流れてきた。
「何してんの?」
「バレた?」
首謀者であろう拓人は下敷きになっている。
「いやぁ、2人で教室出て行くの見たら、心配で見に来たら、人が集まっちゃって。」
「それになんで先生までいるんですか?」
拓人の上にはなぜか、担任の先生が転がっていた。
「いいじゃないか。生徒の青春とか羨まけしからんからね。釘を刺しに来たんだよ。」
「そんなこと言ってますけど、1番ワクワクしてたの先生じゃないですか。」
人間の山から声がする。それに続くように賛同の声がちらほら。
「ええい。うるさい。とにかく、学生なんだから節度ある関係でね。」
そういうと先生は、人の山をかき分けて、教室に向かう。途中、さやかに向けて、親指を立ててウインクを添えて行った。絶妙に古かった。
「はいはい。先生も行ったから、早く戻って。」
山から解放された人から教室に戻っていく。最後に残ったのはもちろん。
「で、仲直りでいいか?それ以上か。」
「まぁ。それに、拓人にはありがとう言わないとって。」
「いいさ。いじる材料が増えるだけだからね。」
「程々にしてくれよ?」
「それはわからんなぁ。家でも覚悟しなきゃな。」
「まさか!?」
「時すでに遅し。もうお兄さんとお姉さん相手に送っちゃった。」
「この・・・」
拓人に飛びかかろうとすると、教室の扉を閉められて逃げられた。
「じゃあ、僕たちも戻ろっ・・・」
僕が後ろを向くと、上からさやかの顔が迫ってきて、お弁当の匂いが残る唇同士が触れた。
「これからよろしくね。」
昼下がりであまり陽が入らない教室から少し顔の赤いさやかが自分の分の弁当を持って出て行った。そこからしばらく僕は、放心状態だった。レモン味ではなかった。




