雪に青サギ 第二十二話
さやかは、弁当箱を置いて僕に近づいてきた。広い空き教室の端っこに、肩をくっつけて座る。
「ちかいよ。」
「嫌なら離れて。」
そう言われてしまうと、離れるわけにはいかない。僕が拒否しないのを確認してから、さやかは僕の手を握る。
「身長なんて、どうでもいい。最初に会った時も言ったでしょ?私は気にしてない。大地は気にしてしまうかもしれないけど。そんなこと言わせておけばいい。そんなことで、大地の魅力は語れないから。」
そういうと、さやかは僕の肩に頭を乗せる。
「お姉さんと話している時は、ずっと大地の話だった。いろんなこと聞いた。軽い気持ちで始めた勝負だったけど、大地のこと知れば知るほど、負けたくなくて、勝ちたくて、振り向かせたくて。1回目の勝負の時は、本当に悔しくて、でも、これからのこと考えると嬉しくて。いろんな感情がごちゃ混ぜになって、泣いちゃった。ごめんなさい。でも、今思うと嬉しいが勝ってたと思う。そう思ってしまっていた自分にも腹が立って、冷たい態度とっちゃってた。」
「全部拓人が悪いよ。泣かしちゃったことも事実だし。」
「確かに。何かと言って、絶対に絡んでくるもん。」
彼女の後頭部しか見えないが、笑っているのがわかった。
「でも、拓人君にはありがとうって言わなきゃいけないかも。きっかけをくれたのはいつも、彼だったから。」
「当の本人はいじってるだけだと思うけど。」
「それでも!私だけだったら、多分こんなことになってないと思うから。」
時計の長身が12を指そうとしている。
「そろそろ、戻らなきゃ。」
「ねぇ、まだ聞いてない。」
「何が?」
「私は好きって言った。大地は?」
いざ口に出そうとすると、口がモゴモゴする。
「僕は、好きっていう感覚がわからなかった。バレーも兄弟も、なんとなく、常にあるものだったから。」
彼女は僕の答えを聞くために、僕から少し離れて、目を見てくる。
「正直、今でも好きっていう感覚はわからない。でも、なんとなくさやかは大事なのかなって思ってる。必死に姉さんと練習したのも見れたし、負けず嫌いで勝てるまで練習して新しいことも挑戦してたし。素敵だなって。面白いなって。これが好きっていう感情なら、僕はさやかが好きです。」
たっぷり使った枕詞のおかげで、自然に言葉が出た気がした。
「じゃあ、恋人になってもいいってこと?」
「はい。よろしくお願いします。」
男がよろしくお願いしますもなんか変な感じがしたが、これが、僕の精一杯だった。




