雪に青サギ 第二十話
「またなんかあった?」
その日の夜、姉さんが僕の部屋に入って、ベッドに腰掛ける。あれ以降、常に一緒にいたのに、今日に限っては気まずい雰囲気を出していたのかもしれない。それに気づかない姉さんじゃない。
「実は・・・」
姉さんに今日のことを隠し事なしに洗いざらい話した。姉さんは、ため息をつくことなく、真剣にきてくれた。
「大地さ。人のこと好きになったことある?」
好き?
「わからない。彼女いたことないし、綺麗だなとかかわいいなって思うことはあったけど、それだけ。」
「それは好きとは言わないね。なら、私のことは好き?」
「多分、、、」
僕の答えは自信がないものだった。
「そっか。私は好きだよ。いつも必ず頭の片隅には大地がいて、バレーしてる姿を見ると大地に夢中になる。ネットを挟むと大地には負けたくないって強く思う。好きってさ、夢中になったり、頭の中から離れなかったり、負けたくないって強く思うことだと思うんだよね。好意だけが、好きじゃない。いろんな感情を持って、それに素直になって、時には嫌いになる時もあるけど、それも好きのうちなのかなって思うんだ。少なからずバレーは好きでしょ?でも、たまに嫌いになるくらい辛いこともある。それも含めてバレーが好きなんだと思うよ。大きく心が動くことが好きってことなんじゃないかな?」
「・・・」
「ここ最近の、大地のことを見てると思うよ。表情が大きく動いて、心が大きく動いてるって。本当に楽しそうにバレーしてるし、今まで拓人くんと速太くんにしか心を開いてなかった大地が、さやかちゃんと出会って、もう1人心を開く人が出たのかなって思ったんだ。ライバル心剥き出しだったけど、心を動かすってとっても疲れる。負けてくない、どうしても点を取りたいって。でもね、疲れはするんだけど、なぜか訳のわからないエネルギーが湧いてくるんだ。大地は、冷静に物事見過ぎなのかな。状況判断とか、相手チームの分析とかだとそれは必要なスキルだけど、日常的にそれをしてたら、心は動かないよ?せっかく心を完全に開く関係性があるのに勿体無いよ。好きっていうのは本能だから、自分の心に素直になりな。」
「・・・」
何も言わない僕を姉さんは抱きしめた。
「もし、何かあったのしても、私が大地をお婿さんにするから安心しな。」
「姉弟は結婚でき、、、」
「こういうところで、真面目な回答はいらないの。帰ってくる場所があるから。私が帰ってくる場所になってあげるから。安心しな。」
僕より細くて長い背中を手のひらに感じて、あまり感じたことがなかった感情で溢れた。安心しているのに、心がどこか昂っていて、心拍数が上がっていた。
「姉さん。男性用の制汗剤やめた方がいいよ?」
姉さんの顔を見るために、顔を上に向ける。
「嫌だった?」
「男の匂いがして嫌。そんなんじゃモテないよ?」
「言ったでしょ?大地をお婿さんにするって。」
「だったら、僕も離れるかもねぇ。」
姉さんの腕を解いた。
「それは嫌。」
「だったら、もう少し気をつけた方がいいよ。」
まだ風呂に入っていなかった姉さんは、自分の匂いを確認するように袖を嗅いでいる。
「ありがと。姉さんのこと大好きだよ。」
姉さんには聞こえないように小さな声で囁いた。女性らしい柔らかさは感じたが、男物の制汗剤の匂いが姉さんから色気を奪っていた。
「本当に残念だよね。姉さんって。」




