雪に青サギ 第二話
朝食と洗面台での準備を終えて、制服に着替える。上に兄弟がいるから兄のお下がりかというとそうではない。僕が小さすぎて、とてもじゃないけど着れないんだ。手は指先しか出ないし、足もつま先しか出ない。親には申し訳なかったが、新しく買ってもらうことになった。よくお下がりを嫌がる兄弟がいるみたいだが、僕は逆に兄の着ていた服を着たい。大きくて、かっこいい兄のようになりたかった。でも、この様だから、、、
1限がない大学生の兄を置いて、姉と一緒に高校に向かう。この日は、近年稀に見る大雪の影響で、僕の膝まで雪が積もっていた。朝早く父さんが起きてきくれて、雪かきをしてくれたらしい。綺麗に自分たちが歩く場所が確保されていた。その父さんは、疲れて寝てしまったらしい。除雪車も通ったみたいで、黒くて重い、水の含んだ雪が家の壁に沿って積み重なっていた。
「さむ、、、」
腕をさすりながら、生足の姉がつぶやいた。雪国特有の寒さ耐性でも、流石に今日は寒い。
「タイツ履かないからだよ。」
「持ってたやつ伝線してて、着れなかったの。」
「なら、兄ちゃんのズボンはけば?」
「やだよ。男みたいってからかわれるから。」
姉ちゃんは身内の贔屓目なしでも綺麗でスタイルがいいのだが、運動神経抜群なのと部活歓迎会で披露した特技のフライパン曲げをして、すっかりゴリラキャラが定着したらしい。その時、新入生だった僕と最上級生の兄はそれを見て、逆らわないようにしようと心に決めた。
「今日朝練はいいの?」
「先生が出張で体育館借りれなかったから今日は、放課後だけ。」
「そうなんだ。たまには顔出そうかな、、、」
「大丈夫、大丈夫。人足りてるし。」
「でも、大学からは練習しろって言われてるしなぁ。」
姉ちゃんはすでに、うちの近くにある大学への進学が決まっている。兄ちゃんと一緒のところ。スポーツ推薦で特待生。姉ちゃんが練習に来ると、コーチが気分を良くして練習が厳しくハードになる。部員全員に、「姉ちゃんだけは連れてくるな」ってきつく言われてる。コーチからは「連れてこい」って言われてるし、板挟みになる弟の気持ちを考えて欲しい。実際、練習のメニューがキツくなるし、姉ちゃんのスパイクは痛くて寒いこの時期には遠慮したい。
「で、どうなの?好きな子とかできた?」
女性は恋バナが好きとよくいうが、弟の恋バナまで聴きたいのかなって正直思う。思春期の時でも、仲が良かった弊害なのか、うちの兄姉は僕に対して過保護だ。膝の上に乗せてくるし、常に頭撫でられるし。可愛い弟になれればいいのだが、男のプライドが邪魔する。高校生にもなって、弟とお風呂入ろうとした姉の行動には流石に強めに拒否した。そのくせ、兄にはめちゃくちゃ強く当たる姉。尻に敷くタイプなのか、それとも、、、二面性がある姉の方がお嫁に行けるか弟としては心配だ。
「いないよ。姉ちゃんもいないくせに。」
「私には、可愛い大地がいるからいらない。」
そんなことを真剣な顔で言ってくる。嬉しい反面、いいかげん弟離れして欲しいところではある。
「僕に彼女できたら、どうするのさ?」
「そうね。まずは、面接からかな?大地にふさわしい彼女かどうか私が判断しないと。あとそれから・・・」
延々と僕に彼女ができた時の行動を言葉に姉にため息が出る。質問したのは僕だから、止めるわけにもいかなくて。ただ、僕の口から出たため息は白い煙になって形をなしていた。