雪に青サギ 第十六話
試合開始の時間になった。通常6人で行うバレーボール。それが、今は半分の人数同士で行う。ガラガラに見えるコートも、お互いの人数が限られていることで、ある程度コースが読める。攻撃枚数が僕らは1人なので、圧倒的に不利。フェイクも、速攻も、囮すらいない。ただ1人のエースに全ての攻撃権が与えられる。まぁ、3枚ブロックが揃っていたとしても、それをいとも簡単に決める拓人だからできる芸当かもしれないけど。
姉さんと拓人がジャンケンをして、姉さんはサーブ権を選んだ。嫌なことするなぁ。普通のバレーの試合なら、ローテーションルールが適用されるが、流石にこの人数では回すことができないので、基本的に、ネット下に拓人、相手から見て左側に速太、その反対に僕がいる形をとった。もちろんだが、いつものルーティン済みだ。速太も、僕の真似をして同じような仕草を行う。速太と一緒にコートに立つときはいつもと少しだけ違って、最後にお互いの背中を軽く叩く。こうすると、速太の準備が整う。
サーブ権をとった姉さんのチームは、てっきり姉さんが最初に打つものだと思っていたが、最初はさやかみたいだ。僕の正面から打つみたいだ。十中八九、僕を狙ってくると思う。さやかが、大きく息を吐いて、助走を始めた。前見た時とルーティンが違う。前は、スパイクサーブで力任せに打っていた感じだったが、助走が緩やかで、フローターサーブみたいな感じだ。サーブを打つ一瞬、ボールを打つ手の位置が右側に傾いているのが見えた。
「速太!!」
さやかが打ったサーブは、途中までは僕に向かってまっすぐ向かってきたが、ネットを越えるあたりから、緩やかに反対方向にいる速太に向かって食い込んできた。速太はそれをかろうじて上げたが、確実に乱された。
「すいません!フォローお願いします!」
元々パワーがあったさやかのサーブは、強烈な横回転がかかって無回転よりも、ドライブ回転よりもかなり取りづらい。乱されたからと言って、僕らができることは変わらない。どちらかが上げたボールを必ず拓人まで繋げること。拓人はすでに助走に入っていた。身長が低くて少しだけよかったなって思えた。ボールに触れるまでの時間が人よりコンマ数秒長い。守備位置はサーブの時点である程度、把握している。だから、拓人がどっちで打つのか理解できた。今できる精一杯の丁寧で、僕は拓人にトスをあげた。
僕が挙げたトスは、アンテナまで綺麗に伸びて、そのトスを拓人の左手が打ち抜く。ライン上にボールは大きな音と共に、無人の相手コートに落ちた。得点の合図の笛がなる。
「ナイスセット!」
「速太もよく上げたね。」
「ありがとうございます!!」
盛り上がるこっちサイドに対して、向こうの空気は少し重そうだった。
サーブ権がこっちに来たが、僕と速太はサーブの経験がほぼない。友達と遊びでやるくらい。でも、拓人が毎回サーブすると、向こうの連携もクソもなくなってしまう可能性がある。それに、拓人の負担も大きくなってしまうので、スタミナも心配だ。最初は拓人に任せるが、それ以降は仕方なく2人とも打たなければいけない。まともに練習してこなかったものだから、確実に相手のチャンスボールになる。でも、普段点を決めることができないポジションだからこそ、点を決めてみたいという欲も出てくる。
拓人がサーブを打つ。しかし、ネットにひかかってしまって、威力がない。さやかがサーブをとり、姉さんがセットする。綺麗な放物線が、レシーブ後すぐに助走にはいっていたさやかに上がる。ブロックはなし。レシーブで、さやかと勝負する。速太と2人ならフェイント、強打、全てカバーできる。
ボールが地面に落ちた音がした。さやかが打ったボールは、僕らの守備範囲外に落ちた。それも、僕らサイドのコートに。さやかは、アタックラインの内側、それも、ネットの近くに打ち込んできた。アタックラインの内側に打ち込む人間は見たことがあったが、さらに内側、ネットに近いところに打たれたのは初めての経験だった。
「ナイスキー!!」
向こうのコートが盛り上がる。さやかは、こっちを向いて、少しドヤった。
「すごいな。」
「ああ。初めて見た。」
「どうする?」
「もう少し僕が前に出るよ。無理な体制で打つみたいだから、威力はそこまででもない。ただ、少し速太の負担が大きくなっちゃうけど、速太なら大丈夫だよね?」
「はい!!」
「じゃあ、そういうことで。」
僕は少し笑っていた。久しぶりに、対策なしでは手も足も出なかった。ただ、それが楽しかった。




