8話 BR “バリアランク″
綾辻詩織という少女は、異性だけでなく、同性からも人気が高い人物だ。
もちろん、才色兼備な彼女を好ましく思わない人も僅かに存在するが、そんな人たちにも分け隔てなく接する彼女は、さながら天使のようだと比喩されることもある。
そんな彼女の人気の理由の一つとして、その優しさが挙げられる。優しいと言うのは人の良い所としてはありふれたもので、時には良い所が無い場合に使われたりする。
しかし、彼女の場合は真に優しい人物として、我が高校の生徒に知れ渡っている。
おそらく、彼女の良い所を全校生徒に聞くと、その一つとして優しいと答える人は九割を超えるだろう。
そんな彼女の天使像は今、俺の中で音を立てて崩れ去っていた。
動物に優しく、優雅に戯れていると思っていたが、目の前の彼女は狼の姿をした化け物を無残にもバラバラに解体している。
箸より重いものを持てないほど華奢だと思っていたが、目の前の彼女は5kgほどのチェーンソーを片手で担いでいる。
そして、傷ついたことの無いような柔肌は、返り血で真っ赤に染まっている。
そんな彼女の姿に愕然としていると、ついに痺れを切らしたのか、夏音に足で小突かれる。
「急に尻餅なんかついたと思ったら、無視? もしかして、気が抜けちゃった?」
現実に引き戻されるも、まだそれを受け入れられず、震える指を指し、夏音に尋ねる。
「お、お前、あれ」
「ん? あー、あのフードの人、女の人だったんだ! あの人も先輩たちと同じで今回が初ミッションのはずだよ」
女の人であることには驚いたらしいが、綾辻さんだとは気づいてない様子だった。
「おまっ、あれはうちの学校で一番人気者の綾辻さんだよ! 知らねえのか?」
先ほど考えたように、綾辻さんは学年に関係なく、学校中の人気者で、ファンクラブまで存在する。そんな彼女を知らないことが俺には信じられなかった。
「知らないよー、そもそも学年が違ったら人なんて全然分からないでしょ」
そこで、彼女の目にも夏音と同様に恐怖を感じたのを思い出した。
「同じ学校なら一度は会ったことあるだろう? そのときに俺に感じたみたいにビビッと来なかったのか?」
今の俺は綾辻さんと夏音は同じく殺意を持った、同士だと考えた。俺の何にビビッと来たのかは分からないが、二人は波長が合うと思ったのだが。
「見たことないよー、そもそもぼくは校舎裏に呼び出されることが多いし、人気者の彼女はそんな場所には近づかないでしょ?」
そういえば、夏音はいじめを受けているんだった。そこで疑問に思う。こんだけ強い夏音がなぜ、いじめられているのを甘んじているのか。
「そういえばお前―――」
話を切り出そうとした所で遮られる。
「二人とも、チョット落ち着ケ」
それは、黒人のボクサーだった。俺たちが言い争っていると思ったのか、俺と夏音の間に割って入ってきた。
「カノン、コイツを紹介してくレ」
そう言いながら、尻餅をついている俺に右手を差し出してきた。
「先輩は同じ学校の先輩だよー」
それに対して、夏音はめちゃくちゃざっくりとした説明をする。やっぱりコイツは少し残念な所があるみたいだ。
「あの、岩橋大紙です。よろしくお願いします」
立ち上がった俺は、ペコリと頭を下げながら自己紹介をした。
「ロペス・レノフィードだ、オマエ本当にセリオン倒したのカ?」
ロペスさんは自己紹介を終えると、俺が危惧していた質問を飛ばしてきた。
頭が急速に検索を始め、どう答えるべきか、悩んでいると、夏音が楽しそうに答えた。
「本当だよー、ぼくが見つけた時には、先輩はもう、セリオンを倒してたんだよ! これから楽しみだよねー」
一瞬、夏音の目の色が変わる。それはやっぱり獲物を狙うような目だった。
「新人が二人、タイマンで倒シテル、少しスレば、″シングル″なれるカモな」
ロペスさんから新しい言葉が出る。確か夏音も言っていたような気がするが、何を意味するのか、分からなかった。
「その″シングル″って何ですか?」
ロペスさんが夏音の方をチラリと見る。
それに応じて夏音は首を振る。
「″シングル″はコイツの様なヤツだ」
ロペスさんは親指で夏音を指しながらそう言った。この人も案外、アバウトな人なのかも知れない、戸惑いながら夏音の方を見る。
「んー、携帯出してよ」
そう言われるままに携帯を取り出す、さらにバリアーズのページを開けると、指示を受けて言われた様にすると。
No.53
BRー18
と、表示が変わっていた。
「それの下の部分が″バリアランク″って言って、ミッションの貢献度や各々の戦闘力を元にして作られるランキングでー、それが一桁の人たちの総称が″シングル″だよ」
「先輩の18は初参加にしては高すぎると思うけど、セリオンを単独で倒したことが大きく評価されたんじゃない? 」
「ちなみに、上は登録した順番だよ」
ひとしきり説明をしてくれた夏音に礼を言い、画面をじっと見つめる。
「その″シングル″になれば何か変わるのか? それに誰が評価してるんだ」
ふと、思いついた疑問を口にする。
「ミッションに多く呼ばれるし、討伐が難しいと判断された時にピンチヒッターとして、呼び出されることもあるよ」
メリットがないのでは? と思っていると、ロペスさんから補足が入る。
「俺たちハ討伐や、貢献度を本部のヤツらに判断さレテいる。方法は分カラんが」
「それに応ジテ、報酬が支払ワレル。当然呼バレることが増えレバ、報酬も増えル」
なるほど、さらに実力は折り紙付きだ、場合によっては荒稼ぎもできるという訳だ。
「二人のBRはどれくらいなの」
単純な疑問を聞いて見る。
「8だよー」
「16ダ」
やはり、夏音はシングルだったのか、あれほどの実力があるなら当然だとは思ったが、夏音以上の人があと七人いると考えるとゾッとする。
さらに、本部というのがあるらしい。
「もう聞きたいことはない? 」
夏音に聞かれ、綾辻さんのことを思い出す。
さっきいた方を見るがもういなくなっていた。
「無いなら、明日も学校だし、帰ろうよ」
夏音の提案に乗り、今日はもう帰ることにした。学校のことを考えると、ため息が漏れた。
帰り道、突然携帯が振動し、画面を開く。
そこには、″10万円が振り込まれました″という文字があった、通知バーにはもちろん、バリアーズと書いていた。
醜堂睦
No.9
BRー14