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7話 生き延びた先

「そんなやつほっとこーよ」


人間の姿に戻った大紙と夏音は倒れている醜堂に近づき、安否を確認していた。


その時には、大紙の折れていた左腕は元通りになり、ナイフが刺さっていた場所の傷は綺麗に無くなっていた。


「よかった、息はあるみたいだ」


化け物の時に殴り飛ばしたので、もしや殺ろしてしまったのでは? と不安だったが生きていたことで、ホッと胸を撫で下ろす。


「そいつ、セリオンになるとか関係なく先輩を殺そうとしていたんだよ」


夏音が言うには、俺は化け物のスキをつくための囮にされたらしい。


確かにあの時、化け物が江崎さんの方へ行かなければ変身する前に殺されていたかもしれない。


でも、この人がその方法で、何体もの化け物を倒していたのは、変えようのない事実だ。


それによって、救われた人の数は計り知れない。


この事実は、父さんを化け物に殺された俺にはとても重く感じた。


「この人は今後も戦力になる。俺はそう思う」


そう言い、背負って運ぼうとする。体重は軽く、すぐに持ち上がった。


「ふーん」


夏音は少し不服な様子で、俺の後ろをついてくる。


「それよりお前は俺を殺さないのか? 」


俺は夏音が分からなかった。もちろん変な奴だとは分かるが、それでも化け物になる人間と普通に接しているのはおかしい。


その真意を確かめるのと、いつ殺されるか分からない不安から出た質問だった。


「殺さないよ、セリオンの状態で動けるって面白そうじゃん」


あっけらかんとした様子で答える夏音の言葉は不思議と信用出来た。まぁ、信じるしかない訳だが。


「あと、さっきから言ってる″セリオン″って何だよ、ドローンが倉庫に来た時も言ってたよな? 」


察しはついているが、ずっと疑問に思っていたことを聞く。


「あぁ、セリオンって言うのは化け物の種類だよ、今回みたいに狼がそのまま立ち上がったような見た目で、鋭い爪と牙が特徴で大体デカイ」


夏音は人差し指を立てながら丁寧に説明してくれる。


「じゃあ、他に種類がいるのか? 」


「うん、あとは見た目がまんま人間の″スロッフィー″、人間の体に狼の一部があったり、毛深かったりするのが″ハーフ″こいつらの特徴は怪力だね。あと三種はみんな目が真っ赤だよ」


この話だと、藤田さんの知り合いが見たのは恐らく″ハーフ″だろう。


「でも、セリオンは一番強くて、倒せる人も少ないし、なかなか現れないから、今回は運が悪かったね」


いきなりの高難易度のミッションだったらしい。それに、夏音の実力が飛び抜けていることも分かった。


「そう言えば、この後どうすればいいんだ? 」


俺から歩き出したが、漠然と進んでいるだけでどこに向かえばいいのか分からない。


「アハハッ、倉庫に戻ればいいよー」


夏音が爆笑しながらも、教えてくれた。


「多分ロペスたち、ああ、あの黒人の人ね、はセリオンを倒してると思うから、死体を回収する部隊がもう居るはず」


夏音の話では、その人たちからの確認が取れたら、帰れるらしい。


そう説明を聞いていると倉庫が見えてきた。


そこには、五人のガスマスクを被った全身真っ黒の兵隊とボクサー、力士、フードの三人がいた。


ボクサーとその近くにいる力士の足元には、一体のセリオンが転がっており、その顔はひしゃげている。


少し離れた場所を見てゾッとする。


フードの周りにはバラバラになったセリオンの体が転がり、全身には返り血が飛び散っている。


そして少し離れたところには全身にナイフが刺さったセリオンの死体が放置されていた。


ガスマスクのうちの一人がこちらに気付いて近づいてくる。


「荒木殿と岩橋殿ですね、後ろは醜堂殿でしょうか、それでは、報告をお願いします」


声は聞きづらいが、丁寧な様子で話しかけてくる。それに、夏音が進み出て受け答えをする。


「あっちの街道にセリオンと人間の死体が一つずつあるよ」

「あー、それを倒したのは僕じゃなくて先輩だからね」


そう説明を受けたガスマスクは、俺の顔をじっと見つめる。


「分かりました。回収しておきます」


倒せるはずが無いなど、何か言われると思っていたが、何事もなく報告は終了した。


「あと、この気絶してる人、持ってってよ」


夏音は醜堂さんを指差しながら、そう言った。どうやら、医療体制も充実しているらしい。


その指示を受けるともう一人のガスマスクを連れてきて、醜堂さんを運んで行った。


良かった、助けたは良いものの、気絶の理由を聞かれたら、どう答えれば良いか悩んでいたところだ。


まさか、化け物になった自分が殴り飛ばしましたとは言えない。


「よし、もう帰っていいよー。あと、連絡先交換しようよ! 」


夏音はそう切り出してきた。


俺もバリアーズについてもっと情報が欲しいし、何より知り合いがいたら心強い。そう思い、夏音の提案に快く了承した。


また、帰れることに安堵し、ドッと疲れが押し寄せてきたように感じた。


その時、フードの人物が目に入る。結局この人の顔は分からず終いだ。


そう思っていたが、突風になびかれ、その素顔が露わになる。


「ーーー⁉︎」


やつ、いや彼女は紛れもなく知っている人物だった。それに、今日、夏音の他に恐怖を感じた人物でもあった。


あまりの驚きで尻餅をつく。夏音は不思議そうにこちらを見ているが構っていられない。


なぜなら、我らが三年二組の委員長、眉目秀麗で成績優秀な彼女、綾辻詩織あやつじしおりが、真っ赤な返り血を浴び、チェーンソーを携えて、そこに立っていたのだから。

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