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6話 制御不能

紫髪の男、醜堂睦しゅうどうむつは目の前の光景に愕然としていた。


それもそのはず、ついさっきまで人間だった少年が瞬く間に、狼の化け物に変身している。

何か悪い夢を見ているような気分だった。


自分は今回ミッションに参加した人物の中では二番目に古株で、ミッションでの経験値に確かな自信を持っていた。


しかし、今回初めて直面した出来事に現実を受け入れられないでいた。


目の前で起こっていることを受け入れると今までの経験がすべて崩れてしまうような気がしていた。


しかし、化け物は待ってはくれない。小型のセリオンを倒し、ひとしきり雄叫びを上げ終えた後、俺の方目掛けて飛び掛かってくる。


一瞬、意思があると思いかけたがすぐにその考えを捨てる。こちらを睨みつける血走った眼は今まで討伐してきた化け物達と全く変わらない。

それに、例え意思があったとしても自分は恨まれているという自覚があるのでどっちにしろ襲ってくるだろうと思った。


醜堂の戦闘スタイルは、何も知らない新人を囮にし、そいつを襲っている化け物のスキをつき、討伐するというものだ。


今回それのターゲットとなったのが岩橋だった。


相手がセリオンだったことも運がよかった。こちらから仕掛けずとも逃げて、囮になってくれた。


その際、麻酔針を足に投げる。囮が永遠に逃げ続ければスキができないからだ。


そして計画通り、岩橋は囮となった。


もし自分が逆の立場ならそんなことしたやつを絶対に許さない。だから今からコイツに食われるのなら仕方ない……とは思わない。


すぐさま踵を返し、江崎の死体の元へ走る。死体の肉塊をイワハシの方へ投げつける。イワハシは一瞬それに気を取られる。


セリオンは血を好む習性がある。小型のセリオンが岩橋を無視し、江崎を襲ったのは、江崎が血を流しており、それに釣られたからだ。


そして、気を取られている一瞬に、イワハシの側面に回り込み、パイルドライバーを構える。


いつもは囮を襲っている化け物のがら空きの脳天に押し出される釘を突き刺せば終いだ。


いつもと状況は違うが、今までの経験から正確に照準を脳天に合わせることができた。


引き金を引く。


押し出された釘がイワハシの頭部をかすめる。


一瞬でしゃがみ避けられたのだ。


「―――!?」


腹部にとてつもない衝撃を感じる。殴り飛ばされ、木に叩きつけられる。


「アハッ面白そうな状況じゃん」


醜堂は意識が途切れる直前、そんな声が聞こえた。





殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。


体のコントロールが効かない。油断するとすぐ意識が持っていかれそうになる。


さっき釘を避けるとき一瞬だけ体の支配を取り戻したが、すぐに思い通りにいかなくなった。


しかし、一度取り戻したおかげか交互にコントロール権が入れ替わり、少しずつだが体を取り戻しつつあったが。


「――ギャォ」


突然背中を鈍い痛みが襲った。


「一名様ご案内いたしまーーーす」


そこにはナイフを両手に構えた夏音が立っていた。


そこから先は体の自由が利かないこともあり、一方的攻められるだけだった。


飛んでくるナイフを避けようとするが、次の瞬間には意識が遠のき、突っ込んでしまう。


「んーーー? 何がしたいのかにゃー」


間抜けな声を出しながらも、俺を攻撃する手は止めない。


「オ“ア”エ“、オ”エ“ア”」


ついに膝を着かされ、とどめを刺される直前右手を前に突き出し、俺の存在を訴えかける。


それが届いたのか、夏音はとどめの一撃を止める。その瞬間、再び意識が遠のき、夏音に噛みつこうとするが、一瞬で我に返り、右手で顔を抑え込む。


「アハハッ、やっぱり先輩だー」

「初めて見た時からビビっと感じたんだよねー」


顔を地面に押し込んでいる俺を見下ろしながら、無邪気な顔で笑う。


この間何度も意識を持っていかれるが、その瞬間地面に押し込むことで、押さえ込むことに成功していた。


「グア″ヴ」


折れた左腕の指を僅かに動かしながら訴えかける。

ズボンの左ポケットには、薬が入っている。


「グアム? そんなことより、どうやってその姿になったの? 」


全く伝わってない。そして、雑談を続けていく。


俺は、何度も襲いかかる素振りを見せているが、夏音は動じていない。


埒が開かないと思い、ポケットに爪を慎重に入れようとする。


狙い通り指を入れることに成功するが、その瞬間意識を奪われる。


ビリイイイ


襲い掛かろうとすると同時にポケットが破れ、薬が入ったケースが転がる。


「ん? なにこれ」


転がった先は幸運にも夏音の足元だった。


「ゴァ、ガア″グ」


このチャンスを逃すまいと、口を大きく開け、訴えかける。


夏音はケースを開けて一粒の薬をつまみ上げる。


「これを飲んだら、セリオンになれるの? 」


違う、違う、違う! あれを飲まれたらお終いだ! 必死に首を振り、自分の口を何度も指さす。


その時、顔がフリーになり、遂に夏音への噛みつき攻撃が執行された。


「あー! 先輩、飲ませて欲しいんだ! 」


しかし、やっぱり動じずに軽い調子で話しながら、空いた口に薬を投げ入れ、俺の頭を地面に叩きつけた。


ゴクンッ


数秒後、体は元の人間の状態に戻っていく。


「お前、どこにそんな力があったんだよ」


化け物の状態でも一方的にやられた俺は、夏音には絶対に逆らわないと誓った。




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