3話 参加者たち
足がすくみ、蛇に睨まれた蛙のように、身動きが取れない。
声を出そうとするが、空気が漏れるだけだ。心臓の音がどんどんでかくなり、呼吸も荒くなる。
ヤバい……発作が起きる予兆だ。
「アハッ♪ どうしたの? もしかして図星? 」
満面の笑みで悪魔が近づいてくる。右手を少し振ると黒いコートの袖からナイフが出てくる。
「何も言わないなら刺しちゃうよ? 」
俺と少年の距離が拳一個分ほどまで近づく。背後の壁に挟まれ、逃げられない。そこまで追い詰め、悪魔がナイフを突き立てようとした、その時―――。
「そこにいる人、出てきてください」
弱弱しい男性の声で呼びかけられた。その瞬間、少年の動きがピタッと止まるが、ナイフの先が首筋にかすり、血が流れる。
「はーい」
いつの間にかナイフを隠した悪魔は、右手を高く上げながら倉庫内へと入っていく。一人取り残された俺はようやく体が動き出し、その場に座りこんだ。呼吸も鼓動も正常に戻り、一息つこうとするが、すぐに声を掛けられる。
「先輩も出てきてよー」
慌てて座り込んだ姿勢から、すぐさま立ち上がりながら飛び出す。勢い余ってこけそうになるがなんとか踏ん張る。しかし、その頑張りもむなしく、無様に地面とキスをすることになった。
「アハハハハハ」
少年の笑い声が倉庫中に響き渡る。この事態に倉庫中の人から注目が集まる。目を閉じていた力士も片目を開け、品定めするように俺たちの方を見てくる。
「あ、あのー大丈夫かい? 」
そんな中で、スーツの男性から手を差し伸べられる。この声はさっき僕らを呼んだ人の声だ。彼に自覚がないにしろ、俺の命の恩人で、この状況で手を差し伸べてくれる正に聖人君主のような人に思えた。
その人の手を取り、立ち上がる。このころには、呼吸も鼓動も正常に戻っていた。
「私の名前は、江崎正人見ての通りサラリーマンだ。君たちも、このミッションに参加したのだろう? 今後、親睦を深めていく第一段階として、自己紹介をしよう」
再び手を差し出しながら、江崎さんはにこやかに自己紹介をはじめた。
「ぼくは、荒木夏音高校一年生で」
江崎さんの握手に応じながら、悪魔荒木が俺の方をちらりと見る。その目は先ほど再開した直後と同じような人懐っこいものになっていた。
「えっと、岩橋大紙高校三年生です」
ぺこりとお辞儀をしながら自己紹介をすます。
「ああ、話の通じる人たちで良かったぁ、私とこちらの藤田さんは同じタイミングここに来たのだけど、その時にはもうほかの四名は来ていてね、こちらから挨拶しても誰も応じてくれないものだから、ここに来る人はみんなそうだとばかり思っていてね、全く挨拶は社会人の基本なのに、それもできないとは普段どんな生活をしているのやら、もしくは社会からはみ出した愚か者の可能性も……」
江崎さんが急にヒートアップし、その場にいるのにも関わらず、四人の悪口ともとれる発言を始めた。外見は、気弱そうだったけどもしかしてこの人もおかしい人なのでは? そう疑い始めたところで、隣の荒木から声がかかった。
「江崎さんはさっきミッションって言ってたけど、今から何するのか知ってるの? 通知には討伐って書いてたけど」
悪魔が口を出した。その目はいたずらっ子のような目で、他人を馬鹿にしている目だった。
「それは、」
「それは、俺が説明してやろう」
江崎さんが話し出そうとしたところで、ご丁寧に親指で自分を指しながら、アフロが割り込んできた。
彼はやっぱり芸人のボンバー藤田らしく、彼の話は、いま話題の連続殺人事件についてだった。
話によると、彼の知り合いの芸人に死体処理のバイトをしている人がいるらしく、その人がバイトの帰り道、目が真っ赤に充血した、毛むくじゃらの化け物の死体を見たらしい。
「そいつは気づいたら家で寝てたから夢だって言ってたけどよ、俺たちの討伐対象ってその化け物なんじゃねえのか? そいつの話じゃあ、毛むくじゃらなだけで後は普通の人間と変わりなかったらしいぜ、だからこれさえあれば俺でも討伐できると思ったのさ」
そう言いながら、藤田さんは自分のバッグから50cmほどのサバイバルナイフを取り出した。
この人は少なくとも俺よりは情報を集め、今日のために備えてきていた。
そう考えると背中にあるなんちゃって槍が恥ずかしく思えた。
「アフロさんは、なんでそんな危険かも知れないことに参加しようと思ったの? 」
無邪気なのを装い、悪魔が質問する。ちょうど俺も気になっていた所だ。
その質問に数秒間沈黙し、藤田さんは金だと答えた。
「お前らも同じだろ? このサイトの広告を見つけた時は飛び上がって喜んだね、時給十万から百万だぜ、今まで見下してきたやつらがどんな顔するか」
さっきまでの真剣な表情とは打って変わって、まるで悪人のような顔でそう話した。金が絡むと人が変わるのは本当らしい。
それにしても金の話など全く知らなかった。俺はこのサイトを登録した時の記憶がさっぱり抜けているが、いまいちどそのことについて深く考えなきゃいけないのかもしれない。
「私も偶然その広告を見つけてね、そんなうまい話あるわけないと思っていたが、藤田さんの話を聞いて、信憑性が高くなったね」
そんな広告普通なら嘘だと考えるが、それを信じてここまでやって来たということはこの人は案外ピュアなのかも知れない。
そんな風に思いを巡らせていると。
ブーーーーーーーン
倉庫内に一機のドローンが入ってきた。
ドローンに搭載されたカメラがこの近辺の地図をホログラムで映す。
そこには、赤い点が3つ移動しており、この倉庫に向かっている。
「いきなり “セリオン”じゃん」
悪魔がそうつぶやいたのを俺は聞き逃さなかった
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