2話 再開
家に帰り着くとすぐにベッドに倒れ込んだ。
「……はぁ」
もう何度目かわからないため息をつきながら時計を見ると、時間はまだ11時。
早退すると伝えた時、先生は悲しそうな顔をしながら『休めよ』と言い、急な早退を許してくれた。
今日の学校での出来事について思い出す……金髪の後輩が同学年に暴力を受けている現場を見ていたらその後輩と目が合い、ひどい悪寒に襲われた。
その場から逃げ出している途中で発作が起き倒れ込む、そして、綾辻さんに声を掛けられ顔を上げると――。
あの二人の目が今も脳裏にこびりついている。
今はそれを忘れたくて枕に顔を埋める。
幸いというべきかどうかわからないが心も体も疲れ切っていたことで、あっという間に眠ることができた。
夢を見た――――――。
狼の化け物が父さんに覆いかぶさり、鋭い爪を立て、腹部をまさぐっている。
全身には、返り血が飛び散り、クチャクチャと耳障りな音を立てながら、赤く血走った目をギョロギョロと動かしている。
その狼男がゆっくりと振り向く。
その視線の先には鏡があり、そこには、顔の右半分が狼、左半分が俺の姿をした血まみれの化け物が映っていた―――。
ブーッ、ブーッ、ブーッ。
携帯の通知を知らせるバイブレーションが鳴り響き、目を覚ます。
寝覚めが悪く、最悪な夢を見ていたような気がする。
意識が覚醒していくのを感じながら携帯の電源を入れると、現在時刻が22時であることが確認できた。
頭を掻きながら携帯の画面を開くと、そこには、
“討伐対象の居場所の特定が完了しました。11時までに以下の場所へ向かってください。”
という文と、近くの港近辺にある倉庫までの道のりが記載された地図が送られてきていた。
倉庫の場所はここから徒歩で十数分のところにあるようで、通知バーには“バリアーズ“と書かれている。
それが、今朝、登録の連絡が来ていた変なサイトだと思い出すのには少し時間がかかった。
昨日の俺はなぜこんなサイトに登録したのか全く覚えてない。おそらく、父さんの事件に関係しているものだと信じたいが……。
一縷の望みにかけて、バリアーズと薄く光っている部分をタッチすると、
No.53
BR―
という文字が並んだページが浮き出てきた。
その二つ以外には右下にバリアーズのロゴだろうか? 右半分が狼、左半分が人間の顔が描かれた絵がある。
それを見て、さっき見ていた夢が一瞬だけフラッシュバックする。
夢で父さんを襲っていた俺の姿にそっくりだ。
こんな偶然あるはずがない。
そう思い、指定された場所へ向かう準備を始めた。
シャワーを浴び、カップ麺を胃袋に放り込む。
動きやすいジャージに着替え、物差し竿の先に包丁を括り付けたお手製の槍を背負う。
この槍は、通知に“討伐対象”と書かれていたこと、インターネットに書かれていた情報だが、犯人が狂犬病患者の可能性があることから、何かしらの備えが必要だと考え、手軽に作れるものを選んだ。
「行ってきます」
自分が思っているより明るい声が出た。
未知の世界へ足を踏み出すことに少しばかり興奮していることに気づき、気を引き締めなおした。
指定された倉庫が見える位置までやってきた。
倉庫には明かりが付いており、シャッターが開放されている。
恐る恐る顔を出し、倉庫内を見渡すと、6人の人物が見えた。
まず、一番に目に飛び込んできたのは真っ黒なタンクトップに身を包んだ筋骨隆々の黒人男性だ。
手にはテーピングを巻いており、イヤホンをしたまま、シャドーボクシングをしている。
その黒人と対称的なのは、力士だろうか? 着物を着た大柄な男が目を閉じて一歩も動かず腕を組みながら仁王立ちしている。
その近くでは、縞模様の服を着たアフロ頭の男と、スーツを着た眼鏡の男性がいる。
アフロ男は時々テレビで見かけるお笑い芸人で名前は確か、ボンバー藤田だ。
眼鏡の男性はオドオドしており、ボンバーの「えらいこっちゃ」というギャグを何度も見せられて、ここから見ても分かるくらいの愛想笑いをしている。
その二人から少し離れた位置には、紫髪で白い半袖のTシャツにジーパンの男が体育座りをしながら爪を噛んでいる。
血色が悪く、深いクマがあり、ボーッと虚空を見つめている。
最後の一人はフードを深く被り、大きめのジャケットのポッケに手を入れている。
こいつは顔が見えないし、体型もわからないので性別が分からないが、背中にでかいケースを背負っている。
倉庫内にいる人全員を一通り確認できた俺は、倉庫の中へ足を踏み出そうとした、その時―――。
「あっ! 先輩だ」
後ろから聞き覚えのない声が聞こえた。
心臓が飛び出るほど驚き、即座に振り向く。
そこには、今朝学校でいじめられていた金髪の少年が満面の笑みで立っていた。
「な……なんで」
声が震える。
はじめ見かけた時は気弱な少年と思っていた。
けど、目が合うと尋常じゃないほどの圧力を感じた。
少年を見ると後ずさってしまうのは、あの出来事がトラウマになっているからだろう。
しかし今、目の前にいる少年の目はそのどちらともいえない様子で、
「やっぱり! 朝、目があったよね! でも、なんで逃げちゃったの? そういえばあのとき一瞬―――」
などと言いながらコロコロ表情を変えながら話しかけてくる。
美少年と言って差し支えないコイツが俺に向けてくる笑顔は正直めちゃくちゃ可愛いが、なんでこんなにも俺に気を向けているのか全く分からない。
「俺たち前にどこかで会ったことがあるか? いや、今日より前で」
すると少年は
「いや、今朝ではじめましてだよ? でもあのときビビッときたんだよね」
立てた人差し指を頭に持っていきながら、自信満々な顔つきでそんな風に言い放った。
もしかしてこいつは残念な子なのでは? そう疑い始めたところで。
「先輩が今回の討伐対象?」
最後にとんでもない爆弾を投下した。
恐ろしいということだけが先行していたが、あの目は確実に獲物を狙う目だと、今になってようやく気付いた。
そして今、その目が俺に向けられていた。
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