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いちのじゅくりょうです。いつもありがとうございます。これでこの物語は完結です。よろしくお願いします。

 ある日の夕方、あれからしばらく、薔薇の庭園にユーリスはこなかった。ローズクイーンはいつもよりも一時間ほど長く読書をするようにしていたが、それでも彼は気配すら見せなかった。そんな日々が続いたのである。


「お嬢様、お部屋にお戻りください。風をひいてしまします」

「えぇそうね、今日は戻ることにするわ」

「今夜はシチューでございます」

「えぇ、それは楽しみね。あなたの料理はいつだっておいしいもの」


 庭から私の部屋へ向かう道では、多くの使用人が働いている。掃除や物の交換、父である国王に挨拶や何か書類を提出するために順番を待っていたりする。

 姫であるローズクイーンがその横を歩けば道を開けないものはいない。会話をしているものは話を止め、仕事をしているものは仕事を止め、通り過ぎようとするものは道を譲った。一部を除いては。


「今日も出たらしいぞ」

「あぁ今日も逃げられたらしい」

「仕方がないな、現場を見に行こう」


 王宮に勤めている騎士である。彼らはこの国とこの城の警備を任されている。そんな彼らは姫よりも国王を守らなければならない。そのため、少しの緊急事態にもすぐに安全を確認しに行き、報告する。もしもが合ってはいけないので、彼らは四六時中、必死に仕事をする。

 

「今日は一段と忙しいわね、セバスティアン。何かあったのかしら?」

「はい、どうやら賊が一人、場内に不法に侵入したようです。そのものが捕まっていないようなので、それで忙しいのでしょう」

「そうなのね、それは大変ね、でもしっかりと働いていた頂かないと……、」

「まぁ彼らなら大丈夫でしょう。この国では優秀なほうでございましょうから」

「そう、いつも思うのだけど、あなたが出ればすぐに捕まるのではなくって?」

「私が出れば、ローズクイーン様を近くで守る人間がいなくなってしまいましょう。だから私は行かないほうがいいのですよ」

「そういうものなのね」

「そういうものでございます」


 にっこりと笑う、セバスティアンを他所に、ローズクイーンは、ユーリスに会いたくて仕方がなかった。

これが物語で読んだ愛なのだと知った日から、彼女は会えない日々を楽しんでいた。そう考えれば気は楽だった。姫は王子を待つ日々が長いほど愛が深まる。お預けは恋にはいいスパイスだとローズクイーンは信じていた。


 部屋は一番安全な場所にある。国王の部屋、王室の横にある部屋だ。常に見張りがいて、城の四階で、誰も許可なしには入ることはできない。

「お嬢様、夕食を用意してまいります」

「えぇ待っているわ」

部屋に入り、椅子に座る。机に本を置き姿勢を正した。いつも夕食をここにセバスティアンが運んでくる。それがいつものことだった。いつもの通り夕食がここへ来るまで本でも読んで待っていればいいのである。


今日読んでいた本の続きを読む。今日も愛の物語だ。世界には愛の力で奇跡を起こすものがいる。これは国では有名な物語だ。その内容は勇者と姫が二人で奇跡を授かり、魔王を打ち倒す物語。よくある英雄譚だがローズクイーンにとってはその物語が自分たちを表しているみたいで、何度も読み返していた。


ローズクイーンはその物語の冒頭の出会いが好きだったのである。囚われの姫君を救い出す勇者、その出会いの場所が青い薔薇の庭園だったのだ。


赤いバラの庭園で出会ったローズクイーンとユーリスがまるでその物語の冒頭のようで、それに照らし合わせたローズクイーンは少し照れてしまった。


「それ、勇者ユーリーンの英雄譚だろう。昔読んだことあるよ」

 その声に本から顔を上げる。部屋にあった天窓からロープが一本垂れていた。そのロープの下には、久しく合っていなかったユーリスがいたのである。


「ユーリス!!」


 ローズクイーンは喜びがあふれた。大きな声で叫びたかった。出会えた喜びをユーリスと分かち合いたかった。ただそれもユーリスが人差し指を口元に当て、それが「静かにしてほしい」という意味であることが分かったため、声を殺した。


「ねぇ、どうやって来たの?」

「上ってきたのさ」

「四階まで?」

「四階まで」


 嬉しかった。その一言でローズクイーンは「私のためにそんなことをしてくれるなんて」と感激した。


「今日はどうして?」

 と聞いたところでドアをノックする音がした。

「お嬢様、夕食の準備が整いました。いかがなさいますか?」

 ユーリスを見ると人差し指と人差し指をクロスさせる。つまりは誤魔化してほしいということをローズクイーンは汲み取った。


「ごめんなさい、セバスティアン。今、本がいいところだからあとで行くわ」

「かしこまりました。お待ちしております」

「ありがとう」

 そういって離れていく足音を聞くとユーリスは大きな息を吐いた。


「ありがとう」

「いいのよ、これでしばらくは大丈夫よ」

「ありがとう」

「でも今日は本当にどうして来たのかしら?」


 そういったとき、ユーリスはこちらに近づいてくる。近くで止まるかとローズクイーンは思ったがそれよりも先、少し動けば唇がところまで……。

 ユーリスはまつげが長く、目が青い、鼻筋が通っていて、唇が薄い。少しカールのかかった髪が私の顔に触れる。


 15歳の少女には目を開け続けることはできなかった。恥ずかしさのあまり、目を閉じる。が少し開けていた。少しの間でも彼を視界から外したくなかったからだ。


 唇をわずかに上に上げるとユーリスの上唇に触れた。本当は真ん中にキスをしたかったがうまくはいかなかった。

 場所がずれちゃったなと思い、軌道を修正しようとすると、強引にかつ大胆に、唇を奪い返された。手を腰に回し、ローズクイーンの肩に優しく触れる。


 恍惚の笑顔でローズクイーンが固まっていると、しばらく唇から、ユーリスは離れてはくれなかった。

 ローズクイーンも離れたくはなかった。どうかこのままどこかへ連れ出してほしいと思った。あのお姫様みたいに。

 でもそれはできない。ローズクイーンはこの国の姫で、彼は泥棒だ。身分の違いだけではなく、彼には罪がある。ローズクイーンはそれが頭で分かっていたが心が理解してはくれなかった。彼女には彼が王子様で、どんなに着飾った王子やどんなに金を積んだ権力者でも彼女の愛はユーリスに差し出したかった。もうどうなってもいいとさえ思った。

 唇が離れ、体から力が抜ける。長く熱いキスだった。どうやって息をしていたかさえ覚えてはいない。


「わたしをここから出してほしい」

 そこに私の理性はなかった。もうそこに一国の姫ではなく、ただの女の子がいた。へたり込み、普段絶対にしない女の子すわりをしている。

 ユーリスは考えていた。手を口元に当てて窓のロープのほうを見ていた。それが意味するところは肯定で、だが不安もあり、どうすればいいか考えているようだった。


「私をここから連れ出してほしいの」

 少し声を張る。もう外に誰がいるだとか、ここがどこだとか、ローズクイーンの身分がどうだとか彼女にとってはどうでもよかった。「ここからでたい」というその気持ちをもう止めることはできなかった。


 そして姫は分かっていた。ここはローズクイーンの城で、ここはローズクイーンの全てを叶える場所であることを。もちろんユーリスの答えは……、

「わかった」

である。

 そう答えたユーリスの顔は決意に満ちていた。責任、彼の心にもそれがあるのだろう。ローズクイーンにもそれがある。だからローズクイーンうれしくなって、頬を赤らめる。


 夢が広がる。将来はどんな家に住もうか、子供は何人ほしいか、仕事はユーリスがして、ローズクイーンが家で料理や家事をできればいいなと彼女自身が思っていた。

「捕まって」

 ロープを右手で掴み、ローズクイーンに差し出す彼の左手はどの白馬に乗る王子よりもカッコよく見えた。

「うん!!」

 ローズクイーンはユーリスの胴に飛び込んだ。それをしっかりと受け止め、ユーリスはロープを上り、二人は天窓を通って部屋を脱出した。

 

 星の夜は風が気持ちよかった。二人で見る月はローズクイーンにとっては最高の景色だった。この景色をコーヒーでも飲みながらゆっくりと眺めることができたらなんて、担がれながら考えていた。

 というのも、ローズクイーンはユーリスのように城の屋根を走ることはできないからだ。しかし時間はない。いち早く移動し、追手がかからないところまで移動する必要があった。それが彼の作戦の一つだった。だからローズクイーンは姫としてあるまじき扱いも耐えることができたし、それに反抗することもなかった。わがままな彼女だが、馬鹿ではないのである。


「これからどうするの?」

 走るユーリスにローズクイーンは尋ねた。

「まずは森へ、城と森の間には抜け道がある。そこを目指すんだ。そしてそこを突っ切って町まで行く。そのあとスラムに潜ればあっという間に国を出ることができる」

「私になにかできることはあるかしら?」

「持ち物を確認したい。何を持っている?」

「あなたからもらった造花のみですわ。それ以外何も持ってきてはいませんわ」

「わかった。それだけ知れば十分だ。少しスピードを上げるから気を付けてよ」

「はい!!」


 風が強く当たる。髪が後ろに靡き、突き当りに照らされてきらきらと光った。

 道はまだまだだが、ローズクイーンは二人でいる時間はいつまでも楽しかった。それがたとえ担がれていたとしても。


 ふとローズクイーンは前を見上げた。暗い夜の城の屋根、そこから見える景色に異変を感じたのである。当然ユーリスもその異変を感じていた。国の騎士たちが森へ続く道で、数多く巡回しているのである。明かに増員されたその量は普段の警戒態勢の比ではなかった。


「どうして、今日はあんなに騎士様たちがいるのかしら?」

「きっと俺のせいだ。ここへ侵入してくるときに見つかったから」

「まさかそこを振り切ったのですか?」

「もちろんさ、そうでもしなければ一国の姫に泥棒が謁見できるわけがないだろう」

「それもそうですわね」


 二人は月明かりの下でくすくすと笑った。

「でも困りましたわね、これでは城内から出ることはできませんわ。城門はここよりも警備が厳重でしょうし、どうしたらよいのかしら?」

「一つある。ローズ、思い出してみて。俺が今まで来たことがある場所はどーこだ?」

「薔薇の庭園ですね。あそこなら大丈夫なのですね!」

「正解、じゃあ行こうか」

「あの!!!!!!」


 ローズクイーンは行こうとするユーリスを止める。

「ローズって呼び方……、好きですわ」

「そう、良かった」


 バラの庭園は二人のいる場所から遠くはない。ここからぐるりと回って反対側に出れば薔薇の庭園が広がっている。そこは夜、閉め切っているために、誰もいないはずだった。本来誰も使わないのだ。誰も警備するはずがない。そうローズは思った。

「早くここを出よう」

 そういうユーリスはどんな騎士よりもたくましく見えた。


 バラ園には誰もいなかった。白いバラや赤いバラが二人を歓迎する。月明かりに照らされて、白の薔薇はより白く、赤いバラは少し暗みを帯びる。それがいつもとは違う雰囲気があるとローズは考えていた。


「どこへ向かえばいいのかしら?」ローズが尋ねるとユーリスは

「奥の薔薇のアーチの近くだ。そこは城壁がくりぬいてあるから、僕ら二人なら通ることができるはずだ」

「わかりましたわ」


 そしてユーリスはローズを地面に下ろした。ここからはローズでも歩くことができる道だ。いつも歩いている平坦な道だ。

 ドアから出て、普段は椅子のところまで歩いていき、そこで本を読む。低いヒールで歩くのはもう慣れてしまったが、今日は足元が暗いので少し歩き辛かった。


ローズは奥に植えてある白薔薇を乗り越えて、奥にある薔薇のアーチを目指す。なんだかローズは楽しかった。二人で歩くことが冒険のようだったからだ。


 ユーリスは先に入り、手を差し出している。 

 私はその手を掴もうとした。しかし、月明かりに舞った鮮血と目の前の手を貫いた矢にローズは手を引っ込めざるを得なかった。

「きゃあああ」

 叫ぶしかなかった。目の前には血しぶきが広がる。「誰?何?誰だ。誰がやったのかしら

」。私の愛する人をどうしてこんな風にしたのだ。痛がって、地面に転がる彼をあんな風にしたのは誰だ。ローズはそれが許せない。誰だ。誰なのだ。


「お嬢様、お部屋にお戻りください。風をひいてしまいます」

 セバスティアンだった。音もたてず、気配も出さず、そこにいると思わなければならないほど気配が薄かった。

 ローズに返り血が付いているのにも関わらず、いつものように声をかけるセバスティアンは冷酷にしか見えなかった。


「いやよ、私はここから彼と出るの、そしてそれから……」

「お嬢様、彼がどのような人物かご存知なのですか?」

「えぇ、もちろんよ、優しくて、かっこよくて、私を連れ出すために四階まで登ってくる。人間にはできないほどのことを平気でやってのける。彼はそんな男よ」


 セバスティアンは珍しくため息を見せた。幼少期からずっと一緒にいたセバスティアンだったが初めて見た、呆れた顔だった。

私はそんな彼を見て動揺した。不意に見捨てられた気さえしたのだ。それほどに拒絶的でローズのことを見限ったような、そんなため息だった。


「いいですか、お嬢様。それはいくつもの間違いがございます。まずその男は世間で有名な奴隷商でございます。国中で指名手配されていて、四度にわたって我々は交戦し、敗北しています」

「名はユーリス。奴隷商のユーリスですぞ。お嬢様をさらって他国へ売ってしまうという算段だったのでしょうが、それはいろいろこちらにも不都合がございます。なのでぎりぎりまで泳がせていたのですが……。まさか姫を攫おうとするとは、まったく滑稽ですな」


ほっほっほと笑う執事にローズは激高した。

「私の好きな人を笑わないで!!」

「お嬢様、その男は悪者でございますよ。いいですか。今もそうやって命を狙っているのですよ。お嬢様はお気づきですか」

 バっと振り向くと、横を何かが抜ける。小さなナイフをセバスティアンが手刀ではじく。

 しかしそんなことはどうでもよくローズにとって、ユーリスの容態だけが心配だった。

「ユーリス!!大丈夫?!」

そこには腕が完全に元通りになっていたユーリスがいた。ローズはぺたぺたと腕を触るがどこにも矢に貫かれた様子がない。だが血は確実に飛び散っており、すこし乾いて黒くなっていた。

「大丈夫だ。すぐに二人でここから逃げよう。誰にも見つからないところまで」

「えぇ!!」


「どうやら、何を言ってもダメなようですな。魅了か洗脳か、はたまた呪いをかけた可能性もございますな。さて小僧、お嬢様をその状態にした罪の償いはよろしいか?」

「地獄で言ってろよ。耄碌爺」

「はっは20にもならない小僧がきゃんきゃん吠えておるわ。良いか、おぬし無理な勝負を仕掛けてばかりだと早死にするぞ」

「構いやしないさ。もともと死んだような人生さ」


 そこからはほとんど、ローズは何も覚えていない。ただ叫んでいた。

ユーリスはセバスティアンに腕を正拳ではじき飛ばされた。どこからか飛んで来る矢に立てなくなった。

膝をつき下がった顔にユーリス自身のナイフをセバスティアンが突き立てた。あまりにも一瞬であまりにも無惨に、倒されてもそれでも彼は立ち上がった。刺さったナイフを手に抜き取り、まだ戦おうとするユーリスに「もうやめて」とローズが叫んでも誰も止まる様子はなかった。

そこに増援が駆けつける。槍や剣を持った騎士たちが全員でユーリスに剣や槍を向ける。ローズはもう止めることはできない。自分の無力に泣き叫び、倒れこんだ。

のどが焼けそうになっても、ローズは叫んだ。

「もうやめて」と。

それを見かねたセバスティアンは彼女の首の後ろを軽くたたく。そのわずかな瞬間に魂が抜けるようにローズは体の言うことが効かなくなる。

最後に見えたのは槍や剣が刺さり、身動きが取れず、血を流し続けるユーリスの姿だけだった。最後に「ユーリスのバカ」とだけ言って、意識を失った。


 白い薔薇が血しぶきを受け、水玉模様を作る。月明かりに照らされて綺麗にそれは輝いた。暗さのせいで濡れていたのが血だったのか、誰かの涙なのかは分からない。騎士たちは後片付けに追われていた。


「Lv.が3に上がったよ」

 どこからか声がする。誰が言ったのだろうか。

「君は僕の存在に気が付いているのだろう?」

私に知っているこの存在が何なのか。誰なのか。どういう経緯でなぜ私がこの声を聴くことができるのか。

「あなたは薔薇の妖精?」


 ローズには確信がなかった。だれに言われたわけでもないがそれしか考えることはできなかった。ローズには妖精という概念しか出てこなかったのである。

「いいや、違うね。だいぶ違う。僕は言葉さ。言霊と言ったほうがいいのかもしれないね。僕は言葉が持つ呪いさ。言葉をつかさどる神といってもいいのかもしれない」


「そんなあなたがどうして私に会いに来たのかしら?」

「だって君はこの王国のことや世界のことを知らないじゃないか。そうそう、一番笑ったのはレベルのことさ。Lv.を君は何と言ったのだっけ?」

「愛の力。Loveの力と言ったの」

「はっはっはっはっはっはっはっは。君は最高だよ」


「なぜ笑っているのかしら?あながち間違っていないでしょう。愛の力で冒険者や強くなる。こう考えれば納得をする人たちもいるはずだわ」

「はっはっはっはっはっはっはっはっはっは。はー、あんまり笑わせないでくれよ。そんな人間が綺麗なものだと思っているのかい?いや君がきれいだから僕みたいな精霊と対話をすることができるのだろうね」


「なら何だって言うのかしら?人間は何を糧に強くなっているのかしら?」

「いやその考えが間違っているのさ。糧?そんなもの人間には必要ないのさLv.を省略せずに言うのなら『less virtue』。 つまりは、美徳の喪失だ」


「美徳の喪失?聞いたことがない言葉だわ」


「まあ一般にある言葉ではないからね。いいかい?冒険者のレベルが上がると身体能力や魔力があるのはなぜかわかるかい?」

「それは修行や戦闘をして、経験値が上がったからかしら」

「それは間違っていない。そしてもう一つある」


「もう一つ?」

「そうだ。彼らは魔物に近づいているのさ。どんどんとね。魔物と同等の体になるから戦えるのさ」

「そんなバカな話があるわけないじゃない。フィクションですら、もう少しましな話を考えるわよ?人間と魔物が同党?考えられないわ」

「いや、それが真実さ。怪物になりかけている人物が実際に存在するだろう。例えばさっきの青年。腕が跳ね飛ばされても回復し、そして戦い続ける強さがある。あれが人間に見えるのかな?あれを魔物と呼ばないで何と呼ぶのさ?」

「ユーリスは、怪物じゃないわ。ユーリスは私が愛している人なの。怪物でも魔物でもないはずだわ。ただあなたの言いたいことは分かるわ。ナイフを手刀ではじいたり、矢を正確に射貫くことが人間にできるとは思えないもの」


「まぁ、僕は事実を述べているだけだから。話を戻すけど、人はレベルを上げることで人間を止めることができるのさ。その条件が美徳の喪失ってわけ。寛容、慈愛、分別、忠義、節制、純潔、勤勉、これらを捨てていくこと。これが怪物になるための条件さ」


「まだ少し、信じることができないわ。それならほとんどの魔物がもともと人間ということになるじゃない」

「もちろん、頭打ちはあるし、魔物として生を受けたものもいる。ただ、人はそう簡単に自分が守ってきたものを捨てることができないのさ。許すこと、愛すること、分けること、尽くすこと、耐えること、純粋なこと、学ぶこと。考えてみるといいよ。捨てたことがあるものと、捨てたことがないものがあるだろう?また一時期はなかったけど、今はあるものもあるのかもしれない。残っているものがある限り、人間はまだまだやめることはできないのさ」

「……」

「加えていうと、冒険者たちを思い返してほしい。彼らは粗暴で、酒なんかは我慢せずに飲めるときに飲めるだけ飲み続けるんだ。性には寛容だ。街中で裸であっても何も思わない。それに忠義を尽くすなんてとんでもない。大事なのはプライド。誇りを守るためならば何でもするのが彼らさ。ほかにも悪いイメージを上げればきりがないだろう。それが、冒険者という普遍的なイメージを世間が作った理由さ」

「……」


「難しいよね。でも君は理解してきたはずさ。レベルがあがればどうなるかということを」

「わかった……、気がするわ」

「そうか、それならいいんだ。なら帰っていいよ」

「え?」

 するとここではないどこかから朝の陽ざしを感じる。


「夢はもうすぐ覚める。僕たちはまた会えるよ。楽しみにしてる」

 言霊と名乗った存在はローズに手を振った。背中に釣り針がかかって吊り上げられるようにローズは意識が引っ張られた。


 その時、私は涙が止まらなかった。瞳からこぼれた水が頬を伝う。なぜなら言霊の精霊の後ろにユーリスが見えた気がしたからだ。

「ユーリス、また!!今度は私が会いに行くから!!!!待ってて。絶対私が!!」

 ユーリスは笑っている気がした。だから私は頑張れる気がした。


 天井に伸ばした手を眺めながら、私は目を覚ました。

「おはようございます。ローズクイーン様」

 いつもの綺麗で大きなベッドから体を起こしと、セバスティアンが朝の挨拶をする。目にたまった水がベッドに落ちて、シミを作った。

「おはよう、セバスティアン。今日は朝食の前に紅茶が飲みたいわ」

「かしこまりました。すぐに用意いたします」

 夢はゆっくりと忘れていく。

「私ってほんとバカね。見れない夢なら見なければいいのに」

 思い出したくもない夢を彼女は忘れないように何度も何度も思い返す。今日もいつもの日常をこなす。今日は愛の物語は読まないでおこう。ローズクイーンはひとり、心に決めた。

「Lv.が4に上がりました」


いかがでしたか。Twitterのフォロー、評価、感想、応援メッセージをお待ちしております。

続きは考えていますが、この話はこれで区切りをつけさせていただきたいと思います。ここまで読んでいただいた方ありがとうございました。

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