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小雪さんの暖かさ

 少女は、突然の雪のようにこの地に舞い降りた_____


 ▧▧▧


 いつも笑顔。いつも元気。潜木恵はそれだけを取り柄に、中学では話の和の中心となっていた。


 運良く容姿もよろしく生まれてきたおかげで、人に取り入るのも容易にできた。潜木恵はそれがどうしてもつまらなかった。


「転校生を紹介します___」


 お馴染みのテンプレートをつらつらと並べる教師にあくびを噛み殺しながら目を向ける。

どうやら大人共は私に期待しているらしく、ちょっとでも道を外すと心配されるレベル。鬱陶しいったらありはしないが、従っておくことにデメリットはない。

 そんなこんなで興味もなく先生の話を聞いてみるが、どうやら様子がおかしい。転校生が一向に教室内へ入ってこない。


「あら?どうしたのかしら~」


 おろおろと教室の扉を開けると、きょろきょろと辺りを見渡す。もしかしたら、迷子かも~なんて呑気に話す目の前の教師。


 確かに、この中学は旧校舎があることもあり、迷いやすいっちゃ迷いやすい。とは言っても、先ほどまでのついてきていたかのような口ぶりだ。

どちらかと言えばとんでもなくマイペースでふらふらと何処かへ行ってしまった、と言われた方が納得がいくだろう。


「先生、探してきましょうか?」


 ニコリ、といつも通りの笑顔を貼り付けてそう問いかけると、「助かるわ~」とのんびり答えた。信頼しすぎだろう、サボる口実だったらどうするんだ、なんて思いつつ、転校生を探すべく教室を出た。


 ▧▧▧


 とりあえず旧校舎に足を運ぶ。最近できた本校舎と違い、脆くなった木の床がギシギシと音を立てて少し不気味だ。でも、何処か心地いい。


「(......やはり、私はあそこが苦手なのかもしれない)」


 居心地がいいと思い込むことで地位を手に入れたあの教室。でも、そこから出て一人でいると、腹のなかがグルグルと疼くような感覚に襲われる。

 ストレスかな、なんて嗤うと、体の力がずるずると抜ける。


 辛い、と思った。久しぶりの感情だ。今まで圧し殺してきたそれは、やがて自分の体にまとわりつくように、腕を、足を、動かなくする。


 それがどうしても怖くて。


 心の何処かではストレスが原因だと気がついていた。でも、人というのは何かのせいにしたくなるものだ。

げほげほと咳をすると、吐き気に襲われる。一人でいるときしかこんなことできない。それに、今日はどうやら限界だったらしい。


「(つらい、な)」


 こんなところで吐いたら跡が残る、と、壁を伝って歩きだそうとした、その時だ。


 前から、コツリ、コツリと音を立てて、人が歩いてきたのだ。まずい、と察した。


 こんな汚い自分、見られたくない。


 大人しく顔をあげると、そこにいたのは見慣れない白髪の少女だった。


「あなた、こんなところで、どうしたの?」


 そう、声をかける。返事はない。本格的に死神かなんかなのではないか、なんて考えてしまう。

 少女はゆっくり、こちらに歩みより、その手を私の頬に添えた。


 ひんやり、と冷たい手。でも、何処か温かいように感じて。


「つらそう」


 そう、声をかけてきた。顔を見上げる。もう片方の手で私の髪をさらり、と撫でる。


「大丈夫?」


 心底不安そうな顔。でも、どうしてかその顔は自分を安心させるのに充分な材料で。


「......あ"ぁ」


 ぽろり、と頬を温かい液体が落ちる。顔がかっと熱くなり、どんどんと涙はこぼれ落ちた。誰にも弱いところ、見られたくないのに、泣きたくなんて、ないのに。


 優しいその手は涙をすくい、私の頭を優しく撫でる。天使のように包み込んでくれる。体を預けると、背中をゆっくりと擦ってくれた。


「ごめ、なさ......」


 どうにか涙を止めようと、目を擦ると、その手を捕まれた。


「腫れちゃう」


 その少女は、最小限の言葉でこちらを宥めてくる。少女はハンカチを取り出すと、優しく頬を撫でてくれた。

 結局、本当の目的を忘れ、ひとしきり泣いたのだった。


「あの、そういえば、あなたは?」



「冬白小雪」



 その蒼い瞳は、宝石のようで。

 見つめるだけで脳の作りが書き換えられるのではないかと言わんばかりに、存在感を放っていた。


 心が落ち着いた時、本来の目的を思いだしてあっと声を出す。



「そうだ、私転校生を探してて」



「それ、私だと思う」



 けろり、とそう言う少女にそうだったのかと柔らかく笑みを向け、少女の腕を掴んで教室に戻ったのだった。



 これが、出会い。

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