酒蔵の中にいた少年
酒蔵と言えば地下だ。
しかし食糧庫ではなくワイン庫ともなれば召使が簡単に入れるものではなく、逆に持ち主が客人に簡単に見せびらかせる場所にあるものだ。
そして、高級な酒は高級なだけに財産ともなる。
鍵がかかったしっかりとした扉の設置は当たり前だ。
「偉いさんが何時でも行ける場所って言えば、明りが絶やしていないから助かるわ。さて、鍵は私が開けられるものかしら?」
私は二本の金属の棒をドレスのポケットから取り出すと、そのカギ穴に父親に教わったように差し込んだ。
カチリ。
「まあ、簡単すぎる鍵さんね。」
ドアを開けようとノブに手を伸ばしたそこで、ドアは勢いよく外側に開かれた。
「きゃあ!」
「わあ!」
私はあと一センチでドアをぶつけられそうだったことよりも、飛び出して来た銀色の少年に驚いていた。伯母が飼っている銀色の小型犬のような灰色の美しい髪はキラキラと輝き、白い肌は地下室の埃で薄汚れていたが、アーモンド形の大きな目の中で輝く水色の瞳は全くの穢れが無く美しいものだ。
そう、私は八歳の子供ながら、その少年の美しさに驚いていたのだ。
この子が次の王様と望まれているノア王子様なのね。
ええ、ノア王子を王様にしたいその気持ちがわかりますわ!
「君は?え?君が僕を閉じ込めていたの?」
「いいえ?あなたの不幸を聞いて、あなたをさらに完全にここに閉じ込めようと考えましたの。逃げだしたらやってもいない濡れ衣を着せられます事よ。」
少年はこんなに丸くなるんだという風に目を大きく見開いた。
「ここにいたら逃げられないでしょう。」
「そうね。あなたがいつでも逃げられる状態だったならば。ふふ、そろそろ会場のおかしさに大人達が気が付く頃よ。あなたの不在にも。」
ノアはきゅっと唇を噛み数秒考え込んだが、その後は直ぐに顔を上げて初対面の私に対して信じると目を合わせて来た。
「僕には僕をどうしたらよいか分からない。君に任せて良いかな。」
私は私を信じてくれた少年に感激していた。
ここまで私を信じてくれた人は家族以外初めてなんじゃないかしら?
「ええ、いいわ。では、あなたを縛り付けますよ。」
「え?」
彼は驚いたが、でも、やっぱりやめたいとも、私を突き飛ばして逃げ出したりもしなかった。つまり、私を信じてくれたのだ。
ええ、大丈夫よ。
私はあなたを絶対に守り抜きますわ。