英才教育の賜物な私
父は有名泥棒らしい。
まあ、嘘吐きは泥棒の始まりとも言うし、彼のそれは大嘘かもしれない。
だが、私に英才教育の指導をしたのだから、やっぱり泥棒なのかも。
すれ違いに相手の財布や持ち物をすり取る。
絶対音感を身に付けろと楽器を習わせたが、その実、ダイヤル式金庫の鍵のカチカチ音を聞いて鍵を開けられる技を身に着けるためだった。
文字だってそうだ。
他人とそっくり同じな文字をかけるようにって仕込まれた。
これで公文書偽造も私文書偽造もお手のものになる。
そんな父は子爵様だ。
この爵位こそ実は偽物かもしれないと思うが、そこを否定したら私こそ子爵令嬢で無くなり、それなりなお嬢様な暮らしを手放さねばならないかも、と考えれば絶対にそこは疑問に思ってもつま開きにする気持ちなど無い。
「僕の可愛い一番弟子のイルヴァ。初めての狩りに行ってこようか?」
「お父様、クリストファー王子の誕生会が狩りの場なのですの?」
父は笑って答えてくれなかったが、私は父のせいで何かを狩らねばいけない気にもなっている。
いや、そんな指令だと自分に思い込ませて現状を我慢している、が近い。
王子様が十一歳になったお祝いに貴族の同年代の子女を王宮に集めただけだが、私はそんな動物園のような混沌とした世界で気が狂いそうなのだ。
貴族の子供と言っても、子供は子供だ。
奇声を上げて走り回り、皿や菓子を投げ、天上から吊るされたリボンにぶら下って遊ぶ子供達だっている。
着飾らされた服をどれだけ駄目にするか競争、そう思った方が良い場所だ。
もちろん、私はそんな大会などビリっけつで良い。
私は会場をそっと離れると、王宮の長い廊下を歩き始めた。
てくてくてく。
「ちゃんと仕掛けて来たんだろうな。」
「もちろんですわ。あの会場の有様はパンチにいれられたお酒のせい。クリストファー王子の誕生会を妬んだノア王子の仕業、です。」
盗み聞きはいい盗みだわ。
私は廊下の物陰に隠れると、企みごとを人が聞こえる音量で話す間抜けな二人組、蝶ネクタイを付けたクリストファー王子の執事らしき男と、私達子供達を会場に案内したピンクドレスの若い女性の会話に聞き耳を立てた。
「どうやってノア王子の仕業に見せつける?」
「あの王子様こそ酒蔵で眠っていらっしゃるの。空き瓶数本と一緒にね。」
私は物陰から這い出すと、王宮の酒蔵を目指して駆け出していた。
王宮内は父が仕事をしている関係上、実は私は目を瞑っても歩ける。
いけない父は私に王宮の間取りを教え込んだのだ。
本当に目を瞑らせて、脳みその中で王宮内を歩いているようなイメージをさせ、私は父の語った様々な王宮の部屋へ冒険へと出かけたのである。