イルヴァの叛乱?
銃撃に驚く俺とイルヴァは立ち上がっており、俺はそんな銃撃が信じられない気持ちのまま俺に倒れて来た体を支えた。
俺の身代わりに銃弾を受けたらしき、運が悪い女性の身体を受け止めたのだ。
金色の髪にヘイゼルの瞳をした、美人と名高いエディット・ベーベルシュタム伯爵令嬢がどうしてこんなことになっているのか考えも及ばないが、俺はとにかくも肩を真っ赤に染めた彼女を抱きかかえながら周囲に叫んでいた。
「医者を!医者を呼んでくれ!」
しかし貴族の子弟という安寧な世界しか知らない者達は、俺の言葉に従うどころかパニックに陥り騒ぎ立てているだけだ。けれども俺の視界の隅では、イルヴァがカフェの使用人や学園の警備兵に指図をして立ち動いてくれていた。
俺は彼女の姿に安心しながらも、数分前の彼女の台詞を思い出していた。
――私は恋が出来ないのに、あなたは好きなように恋をして。
俺が誰かに恋をしているって考えた?
どうしてこんな状況でそんなことを俺が考え出したのか不思議だが、俺は愛しい婚約者の姿から目を離せなくなっていた。
「あ、ああ。これ、は、あのお方の仕業ですわ。あなた様を奪われまいと、ええ、あの方が画策したに違いないのです。」
俺の腕の中の令嬢が、俺の意味が分からない言葉をつぶやき出した。
俺の視線はイルヴァから離れて腕の中の令嬢へと移った。
緑色にも金色にも輝く猫の目を持った美女はいかにも辛そうな表情を俺に見せ、微笑んでもいない俺に対して微笑み返し、俺にご安心ください、と言った。
「ご安心?」
「わたくしがあなた様を守りますわ。あなた様を弑してクリストファー王子の気を惹こうと計画されたのです。そんなことは許せません。わたくしは、ええ、そんな恐ろしいイルヴァ様からあなた様をお守りします。」
俺は腕の中の女性を取り落としそうになった。
この銃撃はイルヴァが計画したことだって?
「ノア王子様。」
「ああ、まずはこの傷を癒す事を考えよう。その後に俺達はイルヴァと話をしよう。いいね。」
「もちろんですわ。」