私が嫌われていた理由
一週間ぶりの学園は何事も起こっていないようどころか、学園の生徒達は下級生だろうが上級生だろうが、同性だろうが異性だろうが、すべからく私から目を逸らしてくれた。
王子暗殺未遂犯という汚名は学園中に広まっているらしい。
「大丈夫だった?あの暴力男に酷いことはされなかったかな?」
涼やかで素晴らしいテノールの声に私は振り向き、クリストファーは私と目が合ったという風に真っ青な瞳を輝かせて嬉しそうに微笑んだ。
「わたくしが?ノアから暴力を振るわれたとして、素直に彼の拳を受けると?」
「ハハ、ごめん。君はマーシャルアーツクラブの彗星だ。そんなことは無いよね。でもさ、そうすると、君は敢えてあいつのあんな威圧的な振る舞いを許しているの?あいつと婚約を続けるなら、将来は王子夫妻なんて呼ばれる身分になるでしょう。そんな男に追従するみたいな前時代的な女性像は、僕は国民に示すべく王族の姿では無いと考えるよ。」
私は首を傾げるしかない。
灰色の影の王子と呼ばれ、常に大人しく目立たないように振舞っているノアが、どうしてクリストファーには威圧的な暴力男に見えるのだろう。
心の中で唱えた私の疑問がクリストファーに聞こえるはずは無いのだが、彼は何でも知っているという風ににっこりと笑った。ええ、その微笑みは国民の心を掴んだ天使の微笑みと断言できるわ。そんな素晴らしい笑顔の彼は、笑顔のまま胸ポケットから取り出した物、小さな鏡を私に差し出して来たのである。
「なあに。」
「君の後方となる五時方向をそれを使って覗いてごらん。」
私はその小さい鏡を言われたように翳して覗き込んだ。
「あら、まあ!ノアが物凄い眼つきで後ろにいる!」
「うん。僕達が頭をつき合わせているから、なおさらに怒っている顔だね。ふふ。あの暴力男はさ、常々君に纏わりついてはああやって他の男達を威嚇しているんだよ。最悪じゃない?」
私に気付かれないように木立の影に立つノアは、クリストファーと一緒の私に対して物凄く嫉妬しているような顔つきをしており、私は先日の彼の告白を思い出して胸がとても熱くなった。
ずっと私を好きだったという彼の告白。
常々ってクリストファーが言うならば、ノアは私が気が付かない今までずっと、私が学園に入学して来てからそんな振る舞いをしていたのね!
「いいえ、最高だわ。彼は私が気が付かない追跡行動が出来たって事よね。ええ、素晴らしいわ。彼を尊敬するわ。」
クリストファーは大きく溜息を吐き出した。
「がっかり。少しは呆れて僕にこそ振り返ってくれると思ったのに。あんなこわーくて陰湿でしつこい男が良いなんてね。がっかりだよ。」
「まあ!酷いのね!」
「ひどくないよ。いくら君の為でも、年下の女の子をあそこまで徹底的に断罪するのは駄目でしょう。」
何のことだと小首を傾げたら、クリストファーは私が弾劾された夜の続きを語り始めたのである。
哀れなり、エディット・ベーベルシュタム。
彼女の退場までの物語だ。




