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幸ある世界の終わりかた  作者: 鳥ノ音
一章 鬼の都
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四話:暴風

そこは長い商店街の一画。

何か面白い物を見せられないかと足を運んだその場所で、どうやらツバメは早速何かを見つけたようで、アレは何?とカガリに聞いた。

その問いに答えるために、ツバメの視線の先をカガリも追った。

そこにあったのは小さな土産物屋で、ツバメが興味を持ったのは、その土産物屋に飾られている非売品の風鈴だった。

水色のガラスに白い花が描かれている風鈴に、青空を思い出したのであろう、ツバメは少し興奮気味に羽をバタつかせてはしゃいでるようだ。

そんなツバメを見てくすりと笑うと、カガリはツバメに風鈴をどう説明したら良いのかを考える。

何せカガリも風鈴と言う物は知っていても、その起源や用途なんかは正直知らなかったのだ。

だから必然


「そうですね......これは風鈴と言う物で......風が来た事を音を鳴らして知らせてくれる道具なのです......おそらく......」


説明もこのように、彼女自身の憶測や予想の交じったふわふわした物になってしまう。

しかし、そんな説明でも物を知らないツバメは興味深そうに、楽しそうにカガリの説明を聞いている。

そんなツバメの無垢な反応にカガリは少し後ろめたい物を感じて心の中で謝罪した。

それから二人はもう一度風鈴を見る。


「とても綺麗な音が鳴るのですが......今聞くのは難しそうですね......」


カガリが少し寂しそう言う。

それは今の世界には風が吹かない事を彼女が知っているからだった。

しかしツバメにはそんな事はわからない。

だから、ツバメは鳴らないかなと期待の眼差しを風鈴へ送る。

そうして......チリン、チリンと音が鳴る。

風の吹かない筈の世界で、風鈴が音を響かせた。

聞いた事のない、綺麗な音にツバメがはしゃぐ、そうして感想を述べようとして、しかしそれ以上の衝撃的な光景を目に、ツバメの思考は固まった。

始めに見たのは驚愕したように目を見開くカガリの表情だった。

次に見たのは鞘から抜き放たれた緋色の刀身、そして赤黒い物を撒き散らしながら宙をまう手。


「カカッ......カカカッ.....!」


ソレは何の前触れもなく、何処から戸もなく、神出鬼没に現れた。

笑い声だけを響かせて、人に酷似した容姿、しかし言葉が通じる事はないだろう。

突然現れたソレは、腹を空かせた獣の如く、切られた自身の腕には目もくれずに、地を蹴りカガリに飛び掛かる。

突然の正体不明な何かの襲撃に、対応こそしたが一瞬思考が止まっていたカガリもまた、刀を一度鞘へ納め構え直す。

始まるのは一瞬の攻防。

常人では目視出来ない程の速さで襲い来る人に酷似した何か、その何かの動きを遮るように、緋色の線が無数にカガリと襲撃者の間に現れる。

幾重にも列なるその様はまるで格子のようで、それは襲撃者が触れる度にその身体を切り刻んで行く。

全てはツバメが数度瞬きする間に起きた出来事だ。

ツバメが何かに襲われている事を認識する頃には、襲撃者は原型がわからない程に細かく切り刻まれ赤黒い水溜りが一つ、二人の目の前には出来上がっていた。

ポカーンとするツバメ。

カガリは「ふぅー......」と一息付き刀を納めると「大丈夫でしたか?」とツバメに聞く。

一つ頷き、今のはいったい何だったの?と聞くツバメ、カガリは


「怪異の類だと思われます。」


と答えを返す。

怪異と言う聞き慣れない言葉にツバメは首を傾げる。


「怪異とは人の空想より生まれた概念的な怪物です。よくない噂や恐怖心が集まる事で生まれるのですが......世界がこんな事になってもまだ居るとは思いませんだした。死者よりも危険なので今後は注意しましょう。」


殆ど理解出来なかったが、それでもその説明にツバメは驚く。

人はどんな物でも作れるのだなと。

そんなツバメの率直な感想に「そうですね......」とカガリは何処か自嘲気味に笑った。


「それよりも、すみません小鳥さん。少し時間を頂いてもよろしいですか?」


そう聞くカガリにツバメは、何かするの?と疑問を返す。


「はい、埋葬を。生き物とは少々異なるので意味があるかはわかりませんし、殺めた私が言うのも可笑しな話ですが、このままにしておくのは可哀想ですから。」


言ってカガリは、原型の残っていない亡骸へ近付き、しかし


「その必要はないぞ?」


突然の第三者の声にその歩みは途中で止まる。


「カカッ!カカカカッ!良いな!とても良い!速く、鋭く、良く切れる......」


赤黒い水溜りが、奇妙にうねる。


「女。お前かなり腕の良い剣士のようだな!カカカッ!」


カガリもツバメも、あまりの光景に自分の目を疑った。

それは時間が巻き戻っているとしか形容しようがない現象だった。


「だが残念。やはりダメだったか。やはり俺は死ねなかったか!」


飛び散った血が、刻まれた肉が、砕けた骨が、破れ汚れた着物が、見る見るうちに瞬く間に元へと戻る。


「これは笑えん!流石に笑えんぞ!だが......まあ......」


元に戻ったソレはツバメとカガリをジッと見てから一つ頷くと


「久方ぶりの真っ当な客人だ!酒......はダメだな!茶でも飲んで行くと良い!」


先程までの恐ろしい殺気や凶暴性は何処へやら、ニッと笑ってそう言った。

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