【1000文字小説】私ってば面倒くさい女
「お願い……私だけを見て……ッ!」
ふと我に返った時、私は彼氏に泣きながらそんな言葉を吐いていた。未だに私の泣き声は止んでいない。しかし、私の中では今この瞬間にこの部屋が沈黙に変化していたのだ。氷のような空気を感じ取って、私は泣きじゃくって出てきていた嗚咽を止めた。今度こそ部屋には本物の沈黙が訪れたのだが、既に私の中で沈黙だったこの部屋に訪れた沈黙は、矛盾によって後者の沈黙を錯覚のように感じさせた。固まった空気の中、時間だけが動いている。ここで私は少し温もりを期待していた。可哀想にと抱きしめてくれる彼の温もりを。しかし、いっこうに彼は動かない。そこである思考が私の中で浮き出てくる。
一体彼は今、どんな目で私を見ているのだろう、と。
そんな思考がまるで毒のように体じゅうに這いずりまわった時、私は唐突な恐怖を感じた。
さっきの発言で嫌われただろうか。さっきの発言で呆れられただろうか。
私は俯いたままだ。彼と目を合わせることが出来ない。もしも私が彼の目を見たら、彼が今、どんな目で私を見ているのか分かってしまうから。
やめろ。やめろよ。そんな目で私を見るなよ。
彼の私を見る目が勝手に脳内で補完される。
憐れみ、蔑み、恐れて―――
「そんな目で見るな!」
私の大声は空気を振動させ、氷の部屋を割りながら彼の鼓膜を通り抜く。ピクッと彼は動き、しばらくした後、立ち上がって部屋から出ていく。ドアがパタン、と乾いた音を鳴らした瞬間、私は初めて前を向いた。
その先に彼はいなかったのだ。
四捨五入したら1000文字です。異論は認めん!