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Act.4 お互いの最推しについて話してみました




 はっとした。


 やってしまった。つい前世のノリでやってしまった。

 今まではちゃんとルシルとして令嬢の仮面を被れてたのに。


 まずいと思ってリナリーを見れば、とてもキラキラと目を輝かせていた。



「…え、と…あの…。」

「…………………凄い。」

「……は?」

「凄い!凄い凄い!同じ世界にライバルとヒロインで転生して、尚且つ推しが被ってもない!こんな奇跡ある?!」



 キャッキャと声を上げて笑う彼女は、リナリー=ロンガートには見えない。

 そこにいるのは、ただの坂上彩花だった。


 仕方ない。

 今この場にいるのは私と彼女、坂上彩花だけ。

 この部屋には私達が呼ぶまで勝手に入るものはいないし、部屋の会話を盗み聞こうなんて輩もいない。


 私は咳払いを一つして、紅茶を一口飲み、カップをソーサーに置いた。


 そして彼女を真っ直ぐ見据えて。



「やめやめ!令嬢ルシルは一旦休憩!」

「えっ。」

「今からこの部屋を出るまでは私は三上麻里奈!貴女も坂上彩花!敬語も敬称もいらない!それでいい?」



 半ば投げやりな問い掛けに、彩花はぱちぱちと目を瞬き、かと思えば飛び切りの笑顔で頷いた。



「じゃあとりあえず今は麻里奈、ね!」

「ん!で…彩花はフィリップ推し?」

「そう!そうなの!フィリップ=ライアス様!あの男社会で育って来ましたーって感じの初心な反応とか、好感度MAXにした後のヒロインを壊れ物のように扱う優しさとか…あー!フィル様素敵!!」



 うっとりと虚空を見上げながら彩花は話す。


 フィルこと、フィリップ=ライアスはライアス侯爵家の次男で、私達より二歳年上の騎士見習いだ。


 肩口程の髪をいつも後ろへ撫で付けた濃いワインレッドの髪と紅茶の様な赤茶の瞳。

 SWでの攻略キャラの一人で、騎士の家系で育った真面目な無口キャラ。


 よし、完全にフィリップ推しのようだ。



「そういう麻里奈はまさかの隠しキャラなの?」

「まさかって何、ザック様超イケメンでしょ。」

「いや、イケメンはある程度全員イケメンだし、人の好みはとやかく言わないけど。結構性格破綻してたよ?ザッカリー様って。」

「知ってるよそれがいいんじゃん!闇を抱える消えた王子様!好感度MAXにした後の執着のしようとかやばくない?」

「あー、わかる、わかるよ!誰にも懐かなかった猫が懐いた感覚!」

「そう!それそれ!」



 ザック様こと、ザッカリー=ティル=アリエスハイム

 アリエスハイム王国の第一王子で私達より一つ年上。

 背中の中ほどまでの長さで、いつも大雑把に編んだ光に当たると青く光る黒のような濃紺の髪と、琥珀色の瞳を持つ。


 彼も勿論、SWにおいての攻略キャラ。

 但し、ザック様はゲームにおいて隠しキャラとして全ルートにほんのりと存在が仄めかされる程度にしか出て来ない。

 他キャラの全ルートを攻略して初めて攻略出来る隠しキャラ。


 何故ならば。


 ザック様は世間的には病死したという設定で、実際は隣国に誘拐されているから!



 普通に学園にはいないし、王太子でもない。

 なんなら同じ国にもいない。


 これだけ聞くと最早どう恋愛をしろと言うのかと思うかもしれないが、彼のルートは全ルート攻略後に、ゲームを始めると自動的に彼のルートになる専用シナリオだ。




「…ところでさ、麻里奈ー。」

「んー?」



 紅茶のお代わりをポットから注ぎながら、彩花はこちらを見ずに口を動かす。



「前世の記憶って昔からあった?」

「え、いや私は今日思い出したよ。門の前、彩花に話し掛けられる直前。」

「え!そうなの?!あー、そっか…私物心付いた時にはあったんだよね…。」

「そうなの?!」



 お互いがお互いの記憶を思い出したタイミングに驚きながら、ポットをコトリとテーブルに置いて少し残念そうにしながら彩花は続けた。



「最初は全然SWの世界だなんて思わなくて、よくある異世界転生じゃんってテンション上がったんだけど、ハリーに会った時に、名前と見た目がさ…まんま、ハリ公じゃん!!って…なってね…。」



 ハリーこと、ハロルド=ローチェル

 私達と同じ歳の、ローチェル伯爵家の長男。

 さっぱりとした短い蜂蜜色の髪とエメラルドのような澄んだ緑の瞳の、わんこっぽい男の子。


 彼もSWにおいての攻略キャラであり、そして、彼はゲームにおいてリナリーとは幼馴染の関係にある。


 その上、彼は元よりリナリーの事が好きな青年であり、他キャラのバッドエンドルートでは大体ずっとリナリーを思い続けたハリーがリナリーとくっつく事になる。


 故に付いたあだ名が『忠犬ハリ公』。



「ハリ公はねー…攻略情報見ずにやるとトラウマになるレベルで好感度上がりまくるキャラだからねー…。」

「そう、めっちゃ出張ってくる。だから無駄に覚える訳よ。そしてあの姿をまんまちっちゃくしたのが出て来たの。」



 少し遠い目をしながらアンニュイに微笑む彩花。


 私は苦笑を零しながら続きを促した。



「それで?やっぱりテンション上がった?」

「勿論!その日に徹夜で攻略ノート仕上げたくらい。」

「執念じゃん。」

「フィル様と結婚したいもん。」

「なるほど。」

「ただね…。」



 言いながら彩花は日本語で攻略と表紙に書かれたノートを取り出した。


 それをパラパラとめくりながら、感慨深く話す。



「その時点で私は三歳な訳よ。その上リナリーって辺境伯家でしょ。さっさとフィル様と会ってとっとと婚約しようにも、特別な理由でもないと王都になんか来ないのよ。しかも娘を連れて。」

「あー…それは、…そうだね。」

「しかもうちとフィル様の家に何の接点もない。」

「国境警備してる訳でもないもんね…。」

「そうなのよ。もーそこからの十二年が辛くて辛くて…ハリーが嫌いな訳じゃないの、でもSWの世界だってわかってるのにフィル様に会えないんだもん。」



 溜息をつきながらノートを閉じて、彩花は項垂れた。


 と。

 そこではた、と思い付く。


 婚約…?

 何か、忘れてる…気がする…?



「…ねえ、すっごいやな事思い出したんだけどさ。」

「ん?どしたの?」



 本来は入学式で思い出してもおかしくはなかった、私が彩花と出会った事にテンション上がり過ぎて壇上を見ていなかったからだ。


 あの時壇上に奴もいたはずだ。

 その時に思い出していたなら、私はもっと早くどうにかしようと頭を巡らせていたのに!



 内心冷や汗をかきながら、彩花の目を見つめて私は間違う筈はないけれども間違いであってほしい記憶を訊ねた。


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