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Act.1 気付けばいきなり転生してました

 



 ここは魔法の国、アリエスハイム王国。

 建国300年以上を誇る、大陸の中でも三本の指に入る大国である。


 そんなアリエスハイム王国の未来の王侯貴族が集う

『王立聖マリエント学園』

 アリエスハイム王国の王都に存在するこの学園は、未来を担う若者達に面識を与え、絆を育み、手に手を取ってこの国を守っていってほしい――そんな願いから建てられた、王国随一の由緒ある学園。



 この物語の舞台でもある――…。





 その学園を前にした途端、そんなオープニングから始まるファンタジー学園系乙女ゲーム『Silent Waltz』を、私は唐突に思い出した。


 私は、ルシル。

 ルシル=フォン=ローズシェットだ。

 今年15歳、成人となる歳で、この王国中の王侯貴族の子息令嬢が集う、三年制の聖マリエント学園に今年から入学する。


 私はローズシェット公爵家の令嬢…そう、これは私が知っている、私としての記憶だ。


 その、はずなのに。



 知らない記憶が滝のように流れ込んできたのだ。


 そして、唐突に理解した。


 私、ルシル=フォン=ローズシェットは…いえ、三上麻里奈は転生したのだ。

 生前一番ハマりまくったその『Silent Waltz』の世界に。


 そして混ざりあった今世の記憶も思い出す。

 私はヒロインに転生したのではなく、よくあるライバルキャラ…ヒロインの恋敵へと転生していた。



 今世の私の名前はルシル=フォン=ローズシェット、ローズシェット公爵家の長女で、今年からこの王立聖マリエント学園に入学する。



 待て、いえ待って、待って下さいお願いします…!


 まずは落ち着くのよ私!!

 確か最後の麻里奈としての記憶では、仕事帰り酔ってふらふらしてたらヒールのせいで足を捻って車道に倒れ込んでしまった。

 起きなきゃと思ってたら近付いてくる車の音と、すぐ近くで女性の短い悲鳴が聞こえて……………多分、そこで死んだんだわ…。


 明日は休みだからSWのコラボカフェに行こうって…思ってたのに……限定のフレグランス…欲しかったですわ…。


 て、そうでなくて!!

 これってよくある転生ものじゃないの!

 よくある設定によくある舞台、まさか自分がこんな体験するなんて夢にも思わなかったけれど!



 よくネットで読んだ小説にあった、よくある物語。

 そして、その物語では転生した主人公はゲームヒロインとの立場は逆転する事が多かったはず。



「あの…。」

「とりあえず思い出せる事は思い出さなくては…今から入学式があって…。」

「あの…!」

「ルシル側から見るってのはなかなか難しいですわ…あの時…。」

「あの!」

「え?」



 何やら聞こえた声に振り向けば、知っているはずだけどもあまり知らない令嬢がこちらを見ていた。


 肩より少し長いふわふわと風にそよぐピンクゴールドの髪。

 平均より少し低い身長のせいで少し幼くは見えるが、それでも立派な女性なのだとわかる程度のスレンダーな体つき。

 きめ細かい白い肌に、ぷっくりとした唇と綺麗な丸みを帯びた頬は薄らとピンク色に染まり、更に形の良い眉に大きな丸い目。


 彼女を表現するなら綺麗、よりも可愛い、だと咄嗟に思った。


 そんな彼女は眉を八の字に顰め、澄んだ灰色の瞳は怪訝な色をして私を映していた。



 このっ…この娘は……ヒロイン!!リナリー=ロンガート!!


 間違いない。

 普段画面に映る事はないが、スチルの中ではよく登場する可憐なヒロイン。

 何に対しても優しく、慈愛に満ちた微笑みとその体に宿る聖属性の魔力のお陰で、世間からは聖女と呼ばれるようになる、ロンガート辺境伯のご令嬢。


 で、そんなヒロインが何故ここに?

 というか、何故私に話しかけてるのかしら…?



「私?私を呼んでらして?」

「そっ…そう、です!」



 んんん????

 緊張がこちらにまで伝わってくるようだわ。

 お陰で私は冷静になれたのだけれど。


 えーっと、今ゲームで言えばオープニング。

 ヒロインはこの学園を見上げ、緊張しながらその門を潜る…手前でなんかあったわね。

 …確か…あ!!そうよ、私だわ!!!


 リナリーは門を潜ろうとして、ルシルにぶつかってしまうんだわ!

 そしてルシルはリナリーを叱責する…そんなシーンがオープニングにはあったわね。


 …て…なんでぶつかられてもないのに私はリナリーに話しかけられてるの…?



「何か御用かしら?」

「えっ、あ、と…その…。」

「?」

「…あの、門の前で、立ち止まってらっしゃったので…どう、したのかと…。」



 少し狼狽えながらリナリーはそう口にする。

 しかし解せない。

 ゲームではヒロインは学園の大きさに圧倒されながら門を潜り、ルシルにぶつかるまで心ここに在らずな状態だったはずだ。

 なのに何故目の前のリナリーは私を見つけたのだろうか。

 そこはそのまま私にぶつかるところじゃないのか。



「どうもしておりませんが…どうしてわざわざ声を掛けたのかしら?」

「え…その…ですね……えっと…。」

「……私、まだるっこしいのは嫌いですの。はっきり仰っていただけません?」



 うっ、と気まずそうに小さく呻き、ヒロインであるリナリーは視線を彷徨わせる。

 しかしそれも一瞬で、決意したように私を見て、震える声で…それでいてはっきりと言った。



「『黒薔薇の君』に何かあったのかと…思いまして…!」

「……はい?」



『黒薔薇』というのは私の通り名。

 腰まである漆黒の髪に、黒と見紛う濃紺の瞳。

 それに女性としては少し高めの身長と猫のようなキツい印象の目。

 スタイルは豊満とはいかないまでも男性受けする体つきをしていると自負している。

 そして印象通りのはっきりと言う性格に、公爵という王族を抜かせば最上位の家格。

 それら全てが合わさり、私は『黒薔薇姫』とあだ名されていた。


 …そう、私の呼び名は『黒薔薇姫』であり、『黒薔薇の君』ではない。

 ない、はずよ…。



 でも私には『黒薔薇の君』という呼び名には覚えがある。


 …前世、SWファンから私ことルシルはとても人気があった。

 堂々とした佇まいと、貴族の手本であるような言動と行動。

 そして何より、ヒロインがハッピーエンドに辿り着くと、ルート次第ではルシルはヒロインを認め祝福してくれるのだ。


『貴女は完璧な令嬢ですわ。もう誰からも田舎者だ無作法だなどと罵倒させません。ローズシェットの名にかけて、生涯必ず。』


 と、そう微笑んで。


 そんな姿から、お姉様のようだと言われ、最終的にファンの間に定着した呼び名が『黒薔薇の君』だった。



 そう、それは前世のお話。

 今世でそう呼ばれた事は、未だかつて無い。


 だって…その呼び名は…。



 心臓が、跳ねるのを感じた。



「…あの。つかぬ事をお伺い致しますけれど…。」

「はい、何でしょう?」

「…『Silent Waltz』という言葉に、聞き覚えは御座いますかしら?」


初投稿です、よろしくお願いします。

TEiRA(てぃら)と読みます。

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