逃走 (vii)
一八は、そろそろ魔蹴球に届くんじゃないかと環に提言し、一度試してみることになった。剣を渡すようにと力に呼びかける。
「ああっ? 逃走役、交代するんじゃねえのかよ?」
力は不服そうに言い、手放そうとしない。長くなるにつれて邪魔ものあつかいしだしている疾走如意剣を、今さら後生だいじに握りなおした。
おまえさっき「この物干し竿がっ」って悪態ついてただろ。
長くなりすぎて交代時は手渡しが難しいため地面へ放り投げているが、力は毎回、ごみのように投げ捨てている。
「ボールを取れたらシュートで牛型モンスターを攻撃しなきゃいけねーだろ」
「誰がミナスの親類だっ。俺は午なんだよ」
「上に線がちょっと出てるか出てないかの違いだろ」
「大違いだっ。『水』と『氷』だって点があるかないかでまったく別ものだろ。『大』と『犬』だってそうだし『さ』と『き』だってそうだろうが」
「そんだけ元気なら全然まだ走れる。いーからさっさとよこせ」
渡せ、交代しないなら渡すもんか、と悶着していると、環が「午角くんっ、遊びでやってるんじゃないのよ」とキレた。
すんません、となぜか敬語でぼそり言って、力は疾走如意剣を放った。やはり水曜日の不燃物の日にうち捨てるように。宝ものあつかいはどうした。
一八は無駄に伸長した剣を拾い魔蹴球のほうへ向かった。重たいうえ、むやみやたらに長く持ち運びにくい。質量保存の法則とはいったいなんなのか(もっとも、なにもないところから魔物やら剣やらがあたりまえのように出たり消えたりしているここでは、既存の物理法則など有って無いようなものだが)。
自分たちはよくこんなものを持って走りまわっていたなと我ながらあきれる。




