ペナルティーキック (v)
隼冊が書き込み、羊が端末をチェック。「正解って出てる」
グラウンドの様子をうかがっていた生徒が口々に、モンスターのガードが解けた、と報じる。
例の、石やガラスの割れるような青いエフェクトが、横たわるミナスの表面で弾けた。無敵の防壁が破れた合図だ。アプリにもその旨が示される。ミナスは倒れたままだ。
「カズのシュートが強すぎてくたばったんじゃねえの」と澤寅が言った。
「いいや、モンスターは無傷だよ」
今や名ばかり委員長となった佐々田九十九が、彼一流の超然とした面持ちで否定する。
おのおのが、グラウンドのミナスと、アプリ上のモンスターの情報を見比べた。たしかに九十九の言うとおり、画面にはフルパワー状態のHPが表示されている。
環が気をゆるめることなく指示をくだす。「宮丘くん、午角くん。モンスターの不可侵状態が解除されたけど、油断しないで。作戦に変更なし。午角くんが囮になってる間に、宮丘くんが魔蹴球を強化して撃つ」
副委員長の管制に、一八が小走りにボールへ向かい、力はミナスに接近する。
「俺は囮だって言うけどよ、クラス委員。こうも盛大にぶっ倒れてんだ。俺が倒してしまってもかまわないんだろう?」
力は通話をしつつ「剣」を振りかざす。彼の右手には、今や数十センチ、少し小ぶりの傘ぐらいに伸びた疾走如意剣があった。さんざんミナスに追いかけまわされたおかげで、どうにか剣らしい長さに「育って」いた。
「不用意に近寄らないで」環が警告する。天祀たち3人組も経験からの注意をうながす。「モンスターは『不可侵』が解けると行動パターンが変わる」
「わーった、わーった」
力はぞんざいにぶらぶら剣をゆらす。
話半分の返事に、司令塔の4人は危ぶんだ。一八に比べれば自制心のある力らしくない。