剣球 (vii)
だしぬけに一八がとんきょうな声をあげた。力もまた自分の端末上に示されたものを見て目が点になる。身に覚えのない自画像よりもよほど困惑するそれが、対ミナスの戦闘で供される武器だというのか。
それらが、目の前に出現した空色の光球内で実体化し、そばに落ちる。
からん、という気の抜けた音。てんっ、てん、てんてんてん……というむなしい響き。
剣とサッカーボールがふたりの男子の前に転がった。
一八はおもむろに、少し前方へ転がったボールをとりにいった。
彼がサッカー部だからというのもある。だがほとんどの場合、サッカーボールと剣の二者択一であれば、普通は剣を選ぶだろう。現代の日本で、実物の剣を手にとれる機会は非常に限られる。強大な敵と戦うにも武器は必要だ。それでも一八はあえてボールを選択した。
彼が熱心なサッカー少年であるからか? 否。
サッカーは得意ではあったが、ボールを友人視したり、等身がおかしなことになるまで大空に翼を広げ羽ばたこうとするほど熱狂的ではなかった。
Jリーガーになりたいとの夢をみていいのは小学生まで。公務員になって安定した将来を、と案外、現実主義な彼が、剣を選ばなかった理由はほかでもなく。
一八がボールを選んだので、力はしかたなく剣を拾いに行く。
小一時間前に教室から見た、あの、どすっと地面に突き刺さった光景とはずいぶんと落差があるな、と思った。この剣にそんな印象的なシーンを期待するのは酷なことだった。
「なに、あれ……?」「剣……?」「おもちゃ?」
目視やアプリ上のビジュアルに教室内がざわつく。
その剣は実にりっぱな柄だった。薄く黄金色に光り、宝玉のようなものが散りばめられ、重厚な装飾がほどこしてある。ゲーム終盤の登場にじゅうぶん耐えうるデザインだ。刃があればなおのこといい。
「あれさ、剣じゃなくね?」
紂文久が指摘した。
力は「剣」を手にとり、ぼそっとつぶやく。「短っ」
彼の見つめている剣は刃先が1cmにも満たないしろものだった。敵を斬るのはちょっと難しいかもしれない。刃の部分で打ちつけたら傷つけられなくはなさそうだが。
「いいえ、剣よ」
文久の感想に環が答える。
装備品の説明欄にはこう書いてあった。




