剣球 (ii) ――― -
生徒がこぞって窓ぎわへ集まる。グラウンドの中央で発光が始まっていた。
色はもちろん例の薄い青。落ちついた穏やかな色あいなのに、生徒の目には不吉でまがまがしいものに映った。
光の向こう側から、みたび、四つ足の獣が歩み出てくる。先ほどのタウよりさらにひと回り大きく、がっしりとした体つきの――
「次は牛かよ」
誰かが言った。ずんぐりと太い体幹と首、ふさのついたテール、顔の同じほどの長さを誇る湾曲した角。やはり形状は、比較的、現実の牛に近い。だが、このモンスターも、怪物たるゆえんを備えていた。
ひとつには体色。この世のどこでもない場所からやってくるものは皆そうであるのか、この牛もまた、灰色の雨にでも打たれてきたようなモノトーンに染められていた。そのようなカラーの生物は、生徒たちの世界にもそれなりに存在するが、モンスターのそれはなにか違う。
生命を感じさせない。岩石のような無生物、あるいは朽ちて風雨に洗われた屍。そういったありもしない命の流れを、あたかも有しているかのように怪物たちはふるまう。生理的な嫌悪の原因はそこにある気がした。
そして、草食動物らしからぬ凶暴な面構え。頭部のつくりも体の形状同様、ありふれた牛のそれでありながら肉食獣を思わせるいかつさ。口を開けたらきっとぎざぎざの牙が並んでいるにちがいない。食事で命をつなぐ必要はないが退屈しのぎに狩りをし食らっている、そんなイメージをいだかせる。
しかし、もっともモンスターたらしめている特徴はその大きさだった。
捕食者然とした顔つきが5階からも見てとれるのは、ただの牛を上まわるサイズにある。前回のタウも馬の姿が似あわなかったが、輪をかけた巨体。色といい、まるで象だ。ちょっと相手にしたくない。
あの不穏な魔物との対峙を強いられるのは誰なのか。自分ではないことを祈りながら、多くの生徒が、もしかしたら今回もまぬがれるのではないか、との淡い期待をいだいていた。根拠は弱かったが、生き死にのかかった状況下ではわらにもすがりたかった。
その弱い根拠によるなら、ひとり、期待ではなく不安をよせなくてはならない生徒がいる。彼の名は――
教室内にもシアンの輝きが発生した。
わっと声があがり、連れ去られるのではないかと軽いパニックを起こす。
騒ぎのなかから選びだされた生徒の体と声が、繭のような丸っこい光にのまれ、消え失せる。
残された生徒は、ああ、やっぱりあいつなのか、と自分が対象とならなかったことに安堵する。それぞれの携帯端末には、モンスターとの対峙と退治の役割をになわされた男子生徒が示されていた。
プレイヤー 午角 力 宮丘 一八